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■ぺんてるの歴代受賞の中で、土橋が注目したプロダクト
ぺんてるのグッドデザイン賞受賞商品は、累計57プロダクトにものぼる。その中で個人的にこれは興味深い!と注目したものをいくつか紹介してみたい。

■シャープペンシル
「シャープ・セブン」 1966年受賞(生産・販売終了)
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ぺんてるがはじめてグッドデザイン賞を受賞したのが、この「シャープ・セブン」というシャープペン。「セブン」という名のとおり、替芯が0.7mmとなっているのが特長。商品名にわざわざ入れるくらいなので、相当なこだわりがある。
ご存知の方も多いかも知れないが、ぺんてるは、今私たちがふつうに使っているノック式シャープペンを世界で初めて作ったという歴史を持っている。さらに言えば、0.9mm芯シャープペンもぺんてるがはじめて。ぺんてるは、今に続くシャープペンの基準を作ったメーカーなのである。

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この「シャープ・セブン」は、製図などのプロ向けではなく、あくまでも一般用として販売されたものだという。価格も300円と当時のシャープペンとしては比較的リーズナブルだった。シャープペンを多くの人たちの手に届きやすい、身近なものにしたという点が評価されたのだろう。

ボディは、角が緩やかな三角軸。その一辺をタップリと使った幅広のクリップが特徴的だ。まるでカモノハシのようでもある。
あまり出っ張っていないので、書いている時にも邪魔にならない。やや太軸だが、握った時に指先がボディに気持ちよくフィットする。

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今や0.7mmシャープペンは、一般ユーザーの間ですっかり普及してしまっている。しかし、この特徴的なデザインは改めて売り出したら結構人気が出るかもしれない。


■シャープペンシル
「メカニカMEC」 1969年受賞(生産・販売終了)

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こちらのシャープペンは、製図用のプロフェッショナル向け。価格は3,000円。今の相場でもかなり高めなので、当時は相当に高級なシャープペンだったようだ。実際、設計者の間ではあこがれの製図用シャープペンとして人気を集めていたという。
また、0.3mmのシャープペンとしては、世界で初めて登場した製品でもあった。

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発売当時のパンフレット。
ドラフターを使った製図ユーザーのためのシャープペンということがわかる。


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最大の特長は、ペン先を保護するパイプが繰り出す機構。グリップをツイストすると、ペン先のわずかなすき間からメタルのパイプがグングンと繰り出し、ペン先を覆い隠す。
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当時の設計者は製図用シャープペンをシャツの胸ポケットにさすということはほとんどせず、製図台などに置いていた。
そのため不意にシャープペンが床に落ちてペン先の細いステンパイプが曲がって使いものにならなくなるというトラブルが結構あった。

そこで、考え出されたのがパイプでペン先を保護する機構だ。
今、見てもスゴイと思うのは、グリップの太さが通常の製図用シャープペンとほとんど変わらない点。内部に保護用のパイプ、ならびにそれを繰り出させるメカを備えながらもグリップのスリムさを維持している。

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この保護パイプをグリップに内蔵したおかげで、ペン先側が安定する低重心も同時に実現している。ペン先を保護をしながらも、それを書き心地のよさにもつなげている点もよくできている。

また、細かなところでは、ボディには特殊なエンジニアリングプラスチック「ポリアセタール(POM)」が使われている。耐久性に優れ、同時に高い加工精度を出せる素材だ。こうしたペンのボディに使われることはまずなく、主には機械の中で使われるパーツとして用いられている。その素材をあえて使ったのは、長く使えるようにするため。通常のプラスチックは、手油などの要因で、使い込んでいくと表面の質感が変化してしまう。そうしたことがこの「ポリアセタール」では起こらない。
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また、「メカニカMEC」のボディは、多面体になっている。これも加工精度を高められる同素材ならではだ。
製図用シャープペンの役割として、常に一定の線幅を保持した描画を行う必要があるため、芯が偏減りしないよう書きながらペンを回転させていかなければならない。そのコントロールが多面体だと操りやすい。

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■水性ボールペン
「ボールぺんてる」 1974年受賞
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ぺんてるは何かと世界初が多い。水性ボールペンもその一つだ。
1960年代後半に「ローリングライター」というペンを発売した。アルミ軸で高級感があり、ペン先とインクタンクが一体化したカートリッジ式になっている。ちょうど「トラディオプラマン」と同じ仕組みである。

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ローリングライター発売当時のチラシ

この「ローリングライター」は、海外で大ヒットとなった。今も一部の国では販売され続けている。しかし、日本ではあまり売れなかった。というのも、当時のボールペンとしてはやや高めの300円だったからだ。
そこで、よりリーズナブルな水性ボールペンを作ろうと開発されたのが「ボールぺんてる」だった。(1972年当時の販売価格は50円)

ボールぺんてる」は、アルミボディから一転してプラスチックになった。ボディは鮮やかなグリーンに。
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発売当時のチラシ。パンタロンにフォークギターという70年代を象徴する若者のイメージ。

なぜ、グリーンにしたかと言うと、ターゲットを若者にしたからだ。その頃のボールペンは、黒インキなら黒ボディ、赤インキなら赤ボディが一般的だった。そんな中で爽やかなグリーンは、狙いどおり多くの若者たちに受け入れられた。

このペンがグッドデザイン賞を受賞した理由は、当時まだ新しかった水性ボールペンを、よりリーズナブルにすることで、若い人たちにも使えるようにしたという点である。まさに、多くの人たちの筆記環境を豊かにした訳である。
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ボールぺんてる」は、生産上の制約を上手くデザインに落とし込んでいる点も興味深い。

改めて、「ボールぺんてる」のデザインを見てみると、直線が多用されていることに気づかされる。複雑な形にするのではなく、生産上、作りやすい直線にしているのだ。
しかし、ただまっすぐにしただけでは、味気のないペンになってしまう。

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そこで、クリップの表面を山状にしたり、キャップの根本にローレット加工の凹凸を付けることで、直線ラインをより魅力あるものに仕上げている。
ちなみに、キャップのローレット加工は、生産機械にキャップを載せやすくするため、どうしても必要な形だった。それを逆手にとって、デザインのポイントにし、同時にユーザーがキャップを開ける時の指がかりの役割にもなっている。

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生産上の制約をデザイン、機能性にうまく取り入れている。まさに、グッドデザインプロダクトだ。

■筆記具セット
「スーパーマルチ8 PH803」 1989年受賞
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1本の中に8種類の芯(色芯、ボールペン芯、鉛筆芯)を内蔵できる超多機能ペン「スーパーマルチ8」。

そのさきがけは、「プリズメイト
(生産・販売終了)」という8色の色鉛筆を搭載したタイプだった。色鉛筆とは言え子供向けではなく、ターゲットはあくまでも大人。中でもデザイナー向けに作られたという。
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8色の色芯を搭載した「プリズメイト(生産・販売終了)」

その後、「マルチ8 PH801」という製図や設計をする方々のためのタイプが登場した。青焼きに書いてもコピーに写らないジアゾノンコピー芯、普通紙に書いてもコピーに写らないPPCノンコピー芯、赤、青、2B、B、HB、Hという8種類。

また、編集者向けに「マルチ8 PH802」というタイプも売り出された。
こちらには、ジアゾノンコピー芯、PPCノンコピー芯、赤、青、緑、茶、橙、黄の色鉛筆を内蔵。
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そして、グッドデザイン賞を受賞した「スーパーマルチ8 PH803」が生まれた。これは、事務のスペシャリスト向けの超多機能ペンだ。
事務でよく使うボールペン(黒、赤、青)、鉛筆(HB、赤、蛍光ピンク、蛍光イエロー、PPCノンコピー芯)の8種類を搭載している。
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いずれもベースとなるボディは同じ。8種類もの芯を内蔵しているにも関わらず、それほど太くなっていないのが特長。
超多機能であっても造形の美観を犠牲にすることなく、流行に左右されない普遍的なデザインに仕上がっている。

■消しゴム
「クリックイレーザー〈ハイパレイザー〉」 1990年受賞
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今でこそスリムな消しゴムはよく目にするが、ぺんてるは1990年頃からすでに発売していた。
クリックイレーザー」は消しゴムの薄さがわずか3mm。この「クリックイレーザー」には、通常の消しゴムタイプの「クリックイレーザー〈フォープロ〉」というタイプもある。

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ボディはアルミ製で、消しゴムの薄さを損なっていない

この消しゴムは、エラストマー樹脂に砂消しのような素材も配合している特別仕様。これにより、ボールペンで書いた文字、さらには印刷物のインクまで消し去ることができてしまうヘビーデューティな消しゴムだ。

製図では、トレーシングペーパーがよく使われる。そこにはシャープペンだけでなく、針のような細いペン先を備えた製図ペンで描かれることもあった。それを消す時に、この「クリックイレーザー〈ハイパレイザー〉」はとても重宝された。特にトレペの場合は、インクが染みこまず表面に付着していることから、消し味がとても良いと好評だった。

製図作業などで消す場合は、字消し板という細いスリットが入ったメタルシート越しに行われていた。
クリックイレーザー〈ハイパレイザー〉」なら、3mmという薄さなので、もはや字消し板いらずとなり、その点も製図ユーザーから喜ばれた。

製図作業を快適にした消しゴムである。

■油性ボールペン
 「まがりんぼーる」 1990年&1992年受賞(生産・販売終了)
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このボールペンは、ボディがクニャクニャと曲がるユニークな機構を持っている。
ぺんてるプロダクトとしては珍しく、外部デザイナーのエミリオ・アンバース氏によるもの。アンバース氏は、このフレキシブルに曲がるという機構を発案した人物である。
しかし、ボディの構造はできたものの、それにあわせて折れ曲がる中のリフィルについては解決できずにいた。ふつうのリフィルだと、折れ曲がってインクの出などに悪影響を及ぼす可能性があった。

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アンバース氏がこの点を解決したいと考え、ぺんてるに共同開発をもちかけた。
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「まがりんぼーる」のリフィルは、このように柔軟性に富んでいる

通常のボールペンリフィルには、ポロプロピレン(PP)が使われている。これはあまり柔らかさがない。
そこで、「まがりんぼーる」にポリエチレン(PE)を使い、その問題を解決した。

そもそもなぜ、携帯時にペンが曲がった方が良いのかと言うと、ズボンのおしりポケットにさして椅子に座ってもペンが折れたりしないためだ。

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発売当初のチラシ。ポケットに入れても大丈夫な点を訴求している

いざ、書く時はキャップをクルクルと回転させると後軸側に移動してカチッと固定でき、それまでクニャクニャ曲がっていたのがウソのように安定感のあるペンに変身する。当然書き心地も良い。

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持ち運び時
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ペン使用時

個人的には、この曲がるという機構とボディデザインをとても気に入っている。生産・販売終了後何年も経つが、今も数本を所有している。

現代では、ペンの携帯場所は必ずしも胸ポケットということでもなくなってきている。仕事の時の服装が多様化しているためだ。
男性であれば、どんな服装をしていてもズボンをはかないということはない。その意味で、今一度求められるペンだと思う。スマホと一緒にポケットに入れておくのにちょうどよい。

土橋の注目したポイント
  • ぺんてるは文具の中でも、それまで高価であったり、やや専門分野向けであったものを、一般向けに仕立て直すという技術力がとりわけ優れている。そのことを一連のグッドデザイン受賞プロダクトから感じることができた。
  • 「ボールぺんてる」のデザインは、生産上の制約を逆手にとって新たな価値を生み出しているという点は、今回はじめてお聞きする話だった。それにより、リーズナブルで、しかも使いやすくしている。これこそグッドデザインプロダクトだとつくづく思った。


グッドデザイン賞(公式)ぺんてる受賞製品一覧

グッドデザイン賞から見るぺんてるのデザイン哲学(前編)
http://pentel.blog.jp/archives/18302251.html


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