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世の中のありとあらゆるものを「拡張」する川田十夢(かわだ・とむ)さん。

「BUMP OF CHICKEN」のポスターをスマホでかざすと、ポスターの中のいくつもの額縁が次々に壁から離れ全方位に飛び出していく。
リアルの世界のポスターは、なにひとつ動いていないのに、スマホに映し出された中は拡張された別世界。
そのスマホを持った手をグルリと360度回してみると、その別世界も連動してちゃんと動いていくから面白い。ひとつひとつの額縁をタッチすると、それがスイッチとなり音楽が再生されていく。

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http://bump.mu/app/ar/

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アプリをかざすともうひとつの世界が浮かび上がる

また、阪急百貨店梅田店では、空間を拡張してほしいと頼まれた川田さんは、その場にはない大阪フィルハーモニーオーケストラを作りだした。  リアルの空間にある実物の指揮台にあがると、大画面の中だけに大阪フィルハーモニーオーケストラが現れ、指揮棒を振ると、演奏がはじまる。指揮棒のリズムに合わせて、オーケストラの演奏も速くなったり遅くなったりする。



今、目の前にある現実世界に、もうひとつの別世界を拡張していく「AR(Argument Reality アーギュメント リアリティ)=拡張現実」
その「AR」をアーティスト、出版社、飲料メーカー、自動車メーカー、TV局など、あらゆる業種のクライアントから依頼を受け、作りあげていく集団、AR三兄弟。その取締役長男である川田さんが「AR」を作り出す時、ぺんてるの「サインペン」が欠かすことのできないツールとなっているという事でお話をお聞きしてきた。

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■川田さんがARに注目したきっかけ
もともと川田さんはミシンメーカーの開発者として10年間働いていた。そこで数々の実績を残した。
たとえば、世界中のミシンとインターネットでつなぎ、ミシンに経験を覚え込ませるというシステムを構築したという。ミシンを使う人には、上手い人もいれば、そうでない人もいる。
そこで、川田さんはミシン自体が熟練の縫い方を覚えて、誰もが上手に縫えてしまうという夢のようなシステムを作った。

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川田さんとしては、便利なものを作ったという自負があり、きっとみんな喜んでくれるに違いない、そう確信していた。
しかし、実際はそうではなかった。

ミシンをインターネットでつないだシステムは、四六時中インターネットで作業を見張られているようなもの。
休むこともできず、従業員からは「地獄のシステム」と言われてしまった。

便利なものを作ったつもりが、使っている人からはいい顔をされない現状を目の当たりにした。

そこで、川田さんはミシンの製造に必要なパーツをカメラで撮影するだけで、すぐにパーツを特定して誰でも簡単に発注できる仕組みを作り上げた。これが現実のものを拡張していく「AR」との出会いとなった。

いくら便利なものを作っても、多くの人たちに興味を持ってもらい面白いと感じてもらわなければ意味はない、そう考え「AR」の世界へと本格的に足を踏み入れていった。

そして、十年勤めたミシンメーカーを辞め、すでに人気となっていた開発ユニット「AR三兄弟」の活動を、さらに本格化させていった。

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AR三兄弟「次男」の高木伸二さん

■「AR」を考えるための2本のペン
AR三兄弟が開発しているものは、ソフトウェアだ。最終的にはプログラミングされていく。しかし、まずどんな世界を拡張していくかのプランを立てるところから仕事がはじまる。この時は、アナログの筆記具が大いに活躍するという。

川田さんがまず手にするのが、シャープペン。1.3mm芯という太めのものを愛用している。
「AR」というものは、プランを練っているその段階では、まだこの世に存在しない。目にすることもできない、あやふやなもの。
それらを考えるときは、黒鉛芯のシャープペンがいいそうだ。シャープペンの筆跡には、色もなく、不確かさがある。それがこの作業にはしっくりとくるそうだ。
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シャープペンで書くことは、プログラミングに近いと話す川田さん。

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川田さんが現在愛用している1.3mmシャープペン

シャープペンで描いたものをベースに、次に手にとるのが、ぺんてるの「サインペン」。
川田さんは、この「サインペン」で書くことを「形を与える」と語っていた。シャープペンで描いたプログラム世界の上から黒の「サインペン」で太く力強い線を引いていく。

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「AR」は、実行形式になるまでは単なる文字の羅列でしかない。ソフトウエアになった瞬間、人が触れることのできるものになる。
シャープペンで書くことは、ちょうどプログラム言語を入力している状態。人が感じられるものにしていく時には、輪郭がハッキリと描ける「サインペン」を手にする。デジタル入力ニュアンスがアナログツールでも同じように使い分けられているのが興味深い。

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2013年「クルマのITソリューション展」で公開された「拡張現実シアター 近未来は今」のスケッチ
http://arsuckerproxy.com/

川田さんは、この「サインペン」を明確に色分けして使っている。基本となるソフトウェアの骨格は黒で描いていく。
その中で所々使われているのが緑色。この色を使う時は、「AR」が生み出される出現条件、つまり「パターン認識」について書き記す時だ。
青でもなく赤でもない。あえて緑色を選んでいるのには、川田さんの幼少時代の記憶が影響している。

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3歳の頃、まわりの大人たちが色の中でもとりわけ緑色を褒めているのをよく見聞きしていたというのだ。
木々や自然の緑などを見ている大人たちがみんな和んだり、喜んだりしている様子が川田さんの記憶に残っているという。「AR」を出現させるのは、見ている人たちを喜ばせたり驚かせたいから。
だから、川田さんは「AR」の出現条件(パターン認識)を、緑で表現しているのだろう。20150315013
「サインペン」の緑色がことのほか気に入っているという。
ネクタイの色やお気に入りのスニーカーも同じ色だ。


■「時間制限」としてのサインペン
川田さんが「サインペン」で描く時は、キャップを後軸にしっかりとさしておく。これは腰を据えて描くということを意味している。
PCを使う時、川田さんはあえて充電器のコードを抜いてしまうという。これは、PCのバッテリーがなくなるまでの間で仕事を仕上げるという時間制限を設けるためだ。
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「サインペン」でも同じことを心がけている。「サインペン」は水性ペンなので、長時間キャップを開けたままにしておくと、だんだんとペン先が乾いて筆跡がかすれてしまう。そうなる前に「AR」を考える。あえて自分を追い込み、集中力を高めているのだ。

ダメなプランは、いくら考えてもダメというのが、川田さんの考え。
限られた時間で考えるからこそ、わかりやすいものになっていくという。

もちろん「サインペン」の書き味も気に入っている。新品の時はペン先が硬く、細い筆跡だが、書き込んでいくとだんだんペン先が馴染んでいく。最終的にはペン先がつぶれてしまう状態になるが、川田さんのお気に入りは、馴染んでいって、つぶれてしまう間の状態だという。

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紙はライフのクリッパーをよく使っている


■「TR」の可能性
今後、「サインペン」で作り上げたいものは?とお聞きしてみた。

「AR(拡張現実)」と「VR(仮想現実)」の中間的存在の「TR」を作りたいという。「TR」とは、「手書きリアリティ」。そう話しながら、すでに作り上げていたサンプルデモをいくつか見せていただいた。

「サインペン」のキャップを慣れた手つきで外し、突如紙の上に強い筆圧で「813」と手書きをされた。その「813」をスマホでかざす。するとスマホから「J-wave」(周波数が81.3)のラジオ放送が流れはじめたのだ。
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スマホからラジオが!

次に「794」と書いて、同じように手書き文字をスマホでかざす。すると平安京が表示されるとともに「ホーホケキョ!」とホトトギスの鳴き声が聞こえてきた。
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スマホからウグイスの鳴き声が!


このTRデモアプリでは、さらに計算まで出来るという。
たとえば飲み会で合計金額が60,243円だったとして、それを7人で割るとします」と川田さんは紙に60,243÷7と書き、文字をスマホでかざしたところ、なんと画面には一人あたりの金額の「8,606円」が出てきた。
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ありそうでなかった「手書き?電卓機能」

さらに「手帳TR」というサンプルデモまであった。手帳に自分が買いたいアイテムを手書きしておく。それをスマホでかざし、アプリ上の買い物カゴボタンをタップすると、実際にAmazonの買い物カゴに入ってしまった。
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あまりの早技に驚いた!

いずれも手書きを入り口として、拡張させた世界へとつながっていくというものだ。紹介いただいたのはまだまだデモ段階だが、こうした「TR(手書きリアリティ)」を実際に使えるようにしていきたいという。

最後に、もしこの世にぺんてるの「サインペン」がなくなってしまったら、どうしますか?という質問をしてみた。
自分で描くことをやめてしまうと思います。他の誰かに代わりに描いてもらうでしょうね。」とまで語っていた。

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土橋が注目したポイント
  • もし「サインペン」がなくなったら、描くことをやめてしまうというほど、「サインペン」に絶大なる信頼を寄せているのには驚いた。「AR」は、目に見えないものを生み出していくこと。無から有を創り出すのに「サインペン」が大きな役割を果たしているのを感じた。まさに表現の道具だ。
  • 「TR(手書きリアリティ)」のサンプルデモのクオリティの高さがとにかくすごかった。今すぐにでも使ってみたいものばかりだった。川田さんの考える「AR」の基本は、余計なことを「省略する」ことだと話していた。
    これまで手に触れることができなかったものを触ってより簡単に操作できる。文具は、手で操る道具。手応えのある「TR(手書きリアリティ)」は、これからのデジタル文具のあるべき姿のように感じた。




川田十夢さんプロフィール
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1976年熊本県生まれ。1999年メーカー系列会社に就職、面接時に書いた『未来の履歴書』の通り、同社Web周辺の全デザインとサーバ 設計、全世界で機能する部品発注システム、ミシンとネットをつなぐ特許技術発案など、ひと通り実現。2009年独立。開発者、そして AR三兄弟の長男としての顔を持ちつつ、ユニークな文体で作家としても活動。2013年、情熱大陸出演。編集者 佐渡島庸平と発明マネジメント会社トルク設立。作・演出・開発をつとめる舞台『パターン』を成功させるなど、ふたつの意味で活躍の舞台を拡張している。2014年10月からレギュラー番組 J-WAVE『THE HANGOUT』がスタート、2015年3月21日 新たな『パターン』がフジテレビで放送決定。

■川田十夢さんツイッター https://twitter.com/cmrr_xxx
■AR三兄弟 公式ページ
http://ar3.jp/

「サインペン」商品詳細ページ
http://www.pentel.co.jp/products/signpen/pentelsignpen/


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