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■20年「ぺんてる筆」を愛用し続けているMIZOさん独自の描き方

ぺんてる筆」極細一本だけで、細密画を描きあげるMIZOさんには、独自のやり方がある。

 新品の「ぺんてる筆」極細をおろして、いきなりは描かない。最初に「慣らし」の作業から入る。まず軸部分を少し押して穂先にインクを染みこませる。この段階では一切描かず、この状態のままで一週間放置する。
というのも、真新しいインクでいきなり描くと、乾いた後に、すこしばかりインクが変色してしまうからだという。それを落ちつかせるために、穂先にインクを馴染ませる。
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それが終わると、次に紙に向かう。と言っても本番の紙ではなく、ウォーミングアップ用の紙だ。穂先だけを使い、細かな線を描き続ける。穂先にたまったインクが枯れる寸前まで続ける。完全に穂先のインクが枯れてしまうと、毛が抜けたりなど穂先のコンディションが悪くなってしまうので、その前でやめる。そして再び軸を押しこみ穂先にインクをためる。もう一度インクが枯れる寸前までウォーミングアップ描きを行う。
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MIZOさんいわく、「ぺんてる筆」には微妙な個体差があるのだという。それを整えるのがこの「慣らし」作業という訳だ。
これが終わった「ぺんてる筆」がようやく創作活動に使われていく。

MIZOさんが描く時は、紙を床に置いて自らもそこに腹ばいになって、アゴを紙の上に載せて描く(作品保護のため、通常アゴの下にはテッシュを敷く)。目を紙に極限まで近づけるため、数分は焦点を合わせる時間が必要になるだそうだ。
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ふだん細密画を描く時は、このように紙にアゴをのせるという 
 

その様子は動画でも見ることができる。


 

 あれほどの繊細な線は、はたしてどのように描いていくのか?

実際に描いていただいた。MIZOさんは「ぺんてる筆」の軸のかなり先端側をギュッと力を込めて握る。細かな線を描くには、穂先がぶれてはいけないので、こうして力を込めて握る必要があるのだという。
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極細の穂先とは言え、結構な太さがある。その先端だけを器用に使い、ササッと紙の上を走らせていく。
なるほど、確かに1mmにも満たない線が次々に作り出されている。穂先の角度をどれくらいにするのか、穂先を走らせるスピード、そして筆圧の具合などを微妙にコントロールして、様々な細さ、そして表情、濃さの線を生み出していく。
MIZOさんは、穂先の毛一本だけを使って描くということまで、コントロールできるというからすごい。
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「ぺんてる筆」の極細がこんなにも細かく描けるとは驚きだ

作品には、1本の「ぺんてる筆」で描き分けたとは思えないような美しい線のグラデーションが表現されている。これは穂先のインクの枯れ具合、そしてやはり穂先の角度、スピード、筆圧加減を駆使して描き分けるそうだ。薄くするために、穂先に水を付けるというのは一切行っていない。
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穂先の運び方ひとつでも、線の表情は変わるという。ハッキリとした線を描く場合は、下から上にゆっくりと穂先を進める。一方、細い線の場合は、上から下へ描いていく。
これまでの経験から、どのようにすればどんな線になるかといった情報はMIZOさんの頭、そして指先にしっかりと蓄積されている。

MIZOさんが「ぺんてる筆」を気に入っている点がもうひとつある。それはインクの黒さだ。真っ黒にしたいときは、一回黒く塗り込んで乾かしたら、さらに2回、3回と塗り重ねていく。そうすると黒さがより深まっていく。
鉛筆デッサンだと、その都度硬度が違う鉛筆を手にしないといけない。「ぺんてる筆」なら一本だけで、様々な表情の描線が生み出せる。

ふと思ったのが、もし描いている途中で間違ってしまったら、どうするのか?
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MIZOさんによると、間違ったらそれでおしまいだという。いくら完成に近づいていようが、一カ所でも間違ったら全ては水の泡と化す。幾度となく、そうした苦い経験を乗り越えてきたというMIZOさん。間違えてしまったら三日三晩飲んだくれてしまうそうだ・・・。


■個展「LOST」
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東京、原宿で開催されたMIZOさんの個展(2015年4月22日〜27日)

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今回の個展のテーマは「LOST」。そのテーマ名を付けた代表作がある。
永い樹齢を思わせる大木が中心に据えられ、様々な動植物、そして人物が描かれている。自然の中ですべての生き物が共存しているような優しい雰囲気がある。
この「LOST」には、現在も急速な勢いで失われつつある世界各地の少数民族への想いが込められている。
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登山以外でも世界各地を旅しているMIZOさんはパプアニューギニアの奥地にある村も訪れた。そこには何千年も昔から変わることなく、自然と共に生活している民族の人たちがいた。独自の民族衣装、そして言葉などの文化が残っていた。もともと世界中には、こうしたその土地ならではの民族の人たちが自然と共に暮らしていた。それが文明の発展に伴い、独自の文化がなくなりはじめ、どんどん均質化されはじめている。
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パプアニューギニアで出会った現地の民族の人たちと
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パプアニューギニアには昔ながらの文化が色濃く残っている

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MIZOさんは、人が行かないそうした土地を訪ね、自分が見たものを絵という作品の中で伝えていきたいと強く思っている。
個展「LOST」では、そうした作品が多数展示されていた。

その個展開催中の2015年4月25日、ショッキングな出来事が起こった。ネパールで大地震が起きたのだ。
MIZOさんの小屋があるランタンエリアは地震による崖崩れでエリア一帯全てが埋まってしまったという。MIZOさんはランタンで現地の人たちと一緒に暮らす唯一の外国人だった。MIZOさんは彼らのことを家族のことのように心配していた。個展終了とともに彼らを長期的にサポートするため現在はネパールに戻っている。

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地震前の自然豊かなネパール ランタン
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地震後には、豊かな緑はほとんど埋もれてしまった


■人生を変えた「ぺんてる筆」
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MIZOさんにとって「ぺんてる筆」は、どんな存在ですか?

『私の人生を変えたペンです。もし「ぺんてる筆」に出会わなかったら、今の細密画は描いていないでしょう。ひょっとすると絵を描くことすら続けていなかったかもしれません。
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美大を卒業して、一度も会社勤めをすることなく、世界の山を登り、絵を描き続けてきました。そこで知ったのは、自然界の美しさです。たとえば花畑は遠くから見ても美しいですが、その花びらを顕微鏡で見てもやはり美しいのです。自然界に存在するものは、拡大すると美しいものの集合体なんです。

その世界観が「ぺんてる筆」極細で表現できるんです。』

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土橋が注目したポイント

  • 代表作「LOST」一枚の完成までに半年もの月日がかかったという。たとえば、わずか1cm四方の石を描くのに、乾いては描くを繰り返し、そこだけで3日間くらいかけるのは普通だそうだ。実に地道で気が遠くなるような創作活動だ。この一歩一歩の積み重ねは、登山にも通じるところがあるように思われた。
     
  • 「自然界に存在するものは、拡大すると美しいものの集合体」
    これはとても印象深い言葉だった。その言葉を聞いて改めて作品を見ると、1mmに満たない線の一本一本にまでこだわり抜くMIZOさんの、美に対する執念のようなものが伝わってきた。

     

*前編はこちら

MIZOさんプロフィール
20年以上、ぺんてるの筆ペンのみを使って細密画を描いている筆ペン画家。
1978年東京生まれ。2000年に多摩美術大学(絵画科 版画専攻)卒業。1998年にネパールのランタンに出会い、2004年からは自らの住居兼アトリエとして小屋を建設。多くの時間をランタンで過ごし、制作活動を行っている。2007年から日本で寄付を募り、ランタンの復興支援を開始。2009年 個展「MIZO展」(銀座ラ・メール)、2015年 個展「MIZO展」(原宿ガレリア)。2016年9月26日〜10月1日にフランス「パリ」でグループ展への参加を予定。(詳細はFacebookにて記載)1999年「ヤラピーク、ガンジャラピーク」登頂。2000年「南米最高峰アコンカグア」登頂。2004年「北米最高峰マッキンリー」登頂。

■Facebookページ https://www.facebook.com/japanmizo



ネパール、ランタンエリアのための寄付のお願い
 今回の震災により、MIZOさんはFacebook上で寄付を開始したという。
寄付金の用途もFacebook上で随時公開していくそうだ。

https://www.facebook.com/japanmizo/posts/1593551167550847



アートイベント「アート・ヴィレッジパーティー」に出展
 作品の原画展示、代表作LOSTの複製画販売、ポスターやポストカードの販売を予定。
場所:横浜赤レンガ倉庫1号2階(入場無料)
2015年7月24日(金)〜26日(日)11:00〜19:00(最終日は18:00まで)

https://www.facebook.com/artvillageparty



「ぺんてる筆」商品詳細ページ
http://www.pentel.co.jp/products/brushpens/brushtype/pentelfude-2/


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