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世界の物語を追い求める探検家 髙橋大輔さん


■「マルチ8」は探検の必需品

マルチ8」との出会いは1997年。当時勤めていた会社の近くにあった銀座の文具店で手に入れた。色を描き分けられるペンを探していたところ、コンパクトなボディなのに8色も描けるところが気に入ったという。
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1997年に買ったという18年間愛用している「マルチ8」。現在も探検では欠かせない必需品だ。

以来、この「マルチ8」は、髙橋大輔さんの探検活動では欠かせないものとなっている。
見せて頂いた「マルチ8」は、その1997年に買ったものだという。少々ボディに艶が出ている以外は、それほどの変化はない。18年経った今も、バリバリの現役だそうだ。探検では、かなり酷使するが、「マルチ8」は全く壊れない頑丈さがあるという。

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所々塗装が剥がれているが、機能面では全く問題ないという


■探検で入手した情報を整理
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サハリンの厳冬期を探検する髙橋さん
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厳冬期のサハリンをカンジキで歩いている

探検とは、何かを探し検証すること。その活動の中で、たくさんの情報が収集される。その整理に「マルチ8」が使われている。たとえば、洞窟を探している時、現地の人から情報を収集する。何人もの人に話を聞き、それを手帳に書きとめる。
このとき、単にメモするだけでなく、場所に関する情報はオレンジで書くなど、あとでまとめる際にわかりやすいよう情報ごとに色分けをしておくという。文字だけでなく地図を描く時は、川は青、野原はグリーンと言った具合にも描き分ける。

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間宮林蔵の足跡(サハリン島)を整理したノート。「マルチ8」で情報が色分けされている。

情報収集は現地の図書館でも行われるという。海外の図書館では、ボールペンや万年筆といったインク系のペンの持ち込みが禁止されていることが多い。貴重な古文書を汚してしまう危険性があるからだ。
こうした時にも「マルチ8」が活躍する。髙橋さんは、「マルチ8」の標準色芯の他に、黒鉛芯もリフィルケースに入れて持っていく。それを「マルチ8」にセットして、黒鉛芯+色鉛筆という体勢で図書館での資料調査に望む。

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また、「マルチ8」は、探検中の時だけでなく探検の準備でも使われる。探検に持っていく服をどれにするか検討する時だ。
一度の探検で極寒の北極から灼熱の赤道まで移動するといったこともある。その場合は、防寒用の服から夏用のものまで持っていかなければならない。無駄なく効率よく用意できるよう手帳に一着ずつイラストで服の色まで描いていくそうだ。

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髙橋さんが愛用している手帳はスマイソン。コンパクトサイズで、中の紙も薄くて軽いので携帯しやすいという。縦に開いて使うのが髙橋さん流。

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探検に、どの服を持って行くかまとめたページ。一目でどの服かがわかるよう「マルチ8」で色を塗ってある。

「マルチ8」で助けられたということもあっという。
ロシアに行った時、ホテルでどうしても言葉が通じずに困っていた。明日の朝10:00にタクシーを呼んで欲しいとフロントに伝えたかった。ロシア語の辞書で「明日」「朝」「10:00」「タクシー」と単語だけを羅列して書いてみせるが、文法もでたらめのため相手はキョトンとしている。

そこで、「10:00」「タクシー」の所だけに「マルチ8」の赤でグルグルと丸く囲って強調した。
すると、ようやく伝わったという。たとえ言葉は通じなくても、赤色は緊急であることは、万国共通なのだ。色で伝えるということが「マルチ8」ではできるのだ。

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氷点下30度。サハリンでは窓も凍結する。

氷点下30度くらいにもなる極寒のサハリンでは、記録のためにカメラで撮影しようにもできないことがある。あまりに寒すぎてカメラの鉄製ボディがまるでドライアイスのようになり、触ると指がひっついてしまうからだ。そんな時も「マルチ8」を使ってスケッチしていく。

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「マルチ8」で描いたサハリン島で出会った人や風景。
描かれたものは、文字だけより伝わってくる情報が多い。


■理想の道具は1つでたくさんの用途に使えるもの

探検では、様々な道具が必要になる。ただ無制限には持っていくことはできない。髙橋さんは、リュックには最大で30kgまでしか入れないと決めている。意外と軽めだなと思ったが、そこには探検家ならではの理由があった。
探検中には、思わぬ事がたびたび起こる。たとえば危険が迫り、その場からすぐに走って逃げなくてはならないこともある。そのため、機動性を保てる重さが最大でも30kgなのだそうだ。
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そのため、荷物は必要最小限に絞りこまれる。髙橋さんの道具選びにはルールがある。それは、1つで何通りもの用途で使えることだ。
たとえば、「シャワーキャップ」がその最たるものだという。どんな用途に使うかというと、雨の日にカメラから水を守る防水カバーとして使う。これでカメラを包み、ポケットに入れて、かぶせたまま撮影をする。そして、催涙ガスや火事になった時のマスクにも使う。さらには、残した食事を保存するラップ代わりにも使ってしまうのだ。
カメラカバーを持っていくこともできるが、それだとカメラをカバーすることにしか使えない。用途が限定されてしまう。
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荷物を最小限に絞りこむ上で、多用途で使えるシャワーキャップは欠かせない
(命を救った道具たち[アスペクト]より転載)

1つで何役もこなせば、その分荷物も少なくてすむ。「マルチ8」は8本の色鉛筆を持たなくてすむという点で髙橋さんのルールにあてはまる道具なのだ。


■思考の交通整理

最後に髙橋さんにとって「マルチ8」は、どんな存在かをお聞きした。

「思考の交通整理をするための道具です。ものごとの順序や重要なポイントなどを8色で描き分けていきます。8種類というのが、多すぎず少なすぎずちょうどいいんです
また、8つの色があることで、8つのことが同時進行で進められるというのも便利な点です。次に予定している探検は南米の最後の秘境と呼ばれている「ギアナ高地」です。以前にも行ったことがあるのですが、ここはいつも雨が降っているんです。高地のため、その雨が下からも降ってくるので、手帳の紙は水に濡れてビショビショに濡れてしまいます。そうした時でも「マルチ8」だとちゃんと書けるんです。」

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土橋が注目したポイント
  • 探検と冒険は違うというのは、個人的に新鮮な驚きだった。当初、この2つを混同していたため、勝手に髙橋さんのイメージをサバイバル的な方と思い込んでいた。しかし、実際にお会いしてみると、それが全然違う。実に落ちついた方だった。それはたぶん、ひとつのことを追求するという立ち位置のせいなのかもしれない。
  • 「マルチ8」というと、これまでどちらかと言うとコピーライターやイラストレーターといったクリエイティブな方の道具という印象を持っていた。今回のお話しをお聞きして探検ツールであるというのは新たな発見だった。考えてみれば、1本で何役もこなす「マルチ8」はアーミーナイフ的でもある。



髙橋大輔さんプロフィール

探検家・作家。1966年秋田市生まれ。
「物語を旅する」をテーマに世界各地、日本全国に伝わる神話、伝説、昔話などの伝承地にフィクションとノン・フィクションの接点を求め、旅を重ねている。2005年にはナショナルジオグラフィック協会(米国)から支援を受けた国際探検隊を率い、実在したロビンソン・クルーソーの住居跡を発見。探検家クラブ(米国)、王立地理学協会(英国)フェロー会員
  
命を救った道具たち
髙橋大輔
アスペクト
2013-04-23



本書の中でも「マルチ8」は紹介されている。

■ 探検家 髙橋大輔のブログ http://blog.excite.co.jp/dt
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