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横浜から電車を乗り継いで1時間、降り立った堀切菖蒲園駅。私の記憶では、はじめて訪ねる場所だと思う。下町情緒漂う駅前通りを歩き、民家の路地に入っていくと昔ながらの倉庫のような建物が見えてくる。

2015年にオープンした「HHH gallery(エイチギャラリー)」だ。
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アーティストのUSUGROWさん、HAROSHIさん、コーディーネーターの半澤順子さんの3人で立ち上げたギャラリー
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自分の作品の発表の場というより、自分たちの好きなアーティストの作品を展示する場、
そして若い人たちにとっての創作のきっかけの場としてスタートしたという

2015年6月13日〜7月12開催されていた「monochrome」という展覧会。国内外8名のアーティストによる黒だけで描かれたモノクロームの作品展だ。黒と白だけの単一の色彩で描かれた世界だが、そこには「単一」という言葉とはほど遠いバリエーション豊かな世界が繰り広げられていた。 
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展覧会開催時のフライヤー

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白黒の世界観が様々な手法で表現された作品が展示されていた


それぞれ全く違うフィールドで活動しているアーティストに参加してもらっています。中にはカラーを使う作家さんもいますが、モノクロームでも素晴らしい作品を残している人ばかりです。

そう語るのは「monochrome」展のキュレーターの一人、USUGROW(ウスグロウ)さん。
ご自身も20年以上のキャリアを持つアーティストとして独自のモノクロームの世界を描き続けている。
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アーティスト USUGROWさん

「今から20年くらい前、CDジャケットを描く仕事をしていた時に、クライアントからは白黒はやめてくれとよく言われました。低予算の自主製作のように見られるというのが理由でした。でも、10年くらい前あたりから、家電やインテリアでもモノクロのものが増えてきたように思います。もはや低予算というイメージは払拭され、モノクロームのものも色があるものと同じようにフラットに見てもらえる環境が整ってきています。

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左:コーディネーターの半澤さんと、右:USUGROWさん

今回の展示会では、そのモノクロームの作品であるということ、そしてもうひとつ大きな特色になっているのが、ひとつの道具で描かれている点。しかも、それは文房具屋でだれにでも手に入る筆記具であるということ。

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8名のアーティストの方々は、それぞれ普段の創作活動で使っている筆記具がある。
たとえば、マーカーやボールペン、シャープペンなど、私たちの身近にあるものばかりだ。どこでも手に入ると説明したが、なにもアーティストのみなさんは入手のしやすさからその道具を選んでいる訳ではない。

色々な道具を手にして創作を行っている中で、手元にあったその道具で描いてみたら、とても馴染んだからというのが一番の理由だ。あくまでも道具との親和性を重要視している。

では、そのモノクロームの世界を見てみよう。


■ MIKE GIANT
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町中の壁に描く「グラフィティ」やタトゥアーティスト(彫師)など多岐にわたる活動をされているMIKE GIANT氏。
一つ一つをコラージュするように美しくレイアウトされた作品を今回出展していた。使われている画材は、「シャーピー」というマーカー。アメリカでは誰もがよく使っている定番的なマーカーペンだ。
MIKE GIANT氏は「シャーピー」が大のお気に入りでよく使っているという。メーカー側もそれを受けて、彼の名を入れたシグニチャーモデルを出しているほどだという。

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右下を見ると日付けが書き記されている

女性のとなりにピストルや蝉があったりと一見脈略がなそうだが、ストーリーを感じさせるアートワークだ。角芯と丸芯を巧みに使い、表情豊かに描いている。MIKE GIANT氏は、一日一枚日記を書くように、その日にあったこと、あるいは感じたことを絵にしている。今回の絵も、その一連のものだ。

作品をグルリと囲むように、その日に感じたキーワードが文字で描かれている。ここだけはシャープペンが使われている。
このシャープペンの描きこみがあることで、原画であることを示しているのだという。
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使用しているのは、ぺんてるの「P205」。多面体のプラスチックボディにメタルクリップという製図用シャープペンだ。日本では廃盤となっているが、根強いファンが多い。海外では今も販売されている。

 
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インスタグラムでアップされたMIKE GIANT氏製作中の様子。
「P205」が使われている。


ウェブサイト:www.mikegiant.com/
インスタグラム:https://instagram.com/ogmikegiant
 

■ KYOTARO
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「monochrome」展では、キュレーターのUSUGROWさんと交流のあるアーティストを中心に声をかけたという。その中で、KYOTARO氏は初めて声をかけたアーティストだ。

実は、青木京太郎の名で漫画家としても活動されている。今回の展示会のために描き下ろされた作品は、三菱鉛筆の鉛筆で描かれている。いずれも作品も顔のまわりを取り巻くものが人間の内面から表れていることを感じさせる。

「封じ外し」という作品は、頭の中で何かを解読し、それを放出しているイメージだという。鉛筆という筆記具の底力をまざまざと見せられた想いがした。

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作品名「封じ外し」

絵が上手い人は世の中にはたくさんいます。上手い上でその人の作品性をしっかりと持っている人をmonochrome展の基準にしました。KYOTAROさんの作品からは、まさにそれを強く感じさせるものがあったのです」とUSUGROWさん。

ウェブサイト: www.kyotaro.biz


■ SHOHEI
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日本の現代風俗を描いているという

あれ?写真かな。。という印象をまず持ったのがSHOHEI氏の作品。
それほど緻密に描かれ、立体感もある。これらの絵は、油性ボールペンで描かれたと聞いて、さらに驚いてしまった。SHOHEI氏がよく使っているのはゼブラのラバーというタイプ。グレーのラバーでボディが覆い尽くされた、いわゆる事務用のボールペンだ。

ボールペンは構造上、インクが思っているよりも出過ぎる「ボテ」や、逆にインクのかすれなども起こりえる。ある意味で、使い手がコントロールしづらいペンである。しかし、作品を見ると、そうしたところが一切見受けられない。

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髪のハイライトの艶感もとてもリアルだ。
描かないことで逆にリアルさを描いているのが興味深い

ウェブサイト: www.hakuchi.jp
インスタグラム:https://instagram.com/hakuchitare/ 

SHOHEIさん個展開催のお知らせ
『灰色ノ煙』
2015年9月5日(土)~9月16日(水)
会場:北海道 札幌space SYMBIOSIS
時間:12:00~19:30料金:無料
http://space-symbiosis.com
 

■ TOSHIKAZU NOZAKA
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スケートボーダーでもあるTOSHIKAZU NOZAKA氏。

波を描くことを得意とし、日本テイストをベースにしながらもその枠に収まらない自由奔放なPOPさもあわせ持った作品だ。

使っているのは筆。コミックインクで描かれている。スケートボードのトラックパーツブランドINDEPENDENT社のために描いたという波のマリア像をはじめ、このショーのために制作されたというひときわ大きな作品は、「寿」という文字に縁起もののサンゴや宝珠をあしらい、一気呵成に描きあげたものだ。
TOSHIKAZU NOZAKA氏のように、スケーターには絵を描くアーティストも多いという。

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スケートボードにはルールはなく、スポーツでもありません。カルチャーなんです。
その自由さがTOSHIKAZU NOZAKA氏の絵からも感じられた。
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ウェブサイト: toshikazu-nozaka.com
インスタグラム:https://instagram.com/toshikazu1/


土橋が注目したポイント
  • 文房具店など、どこでも手に入るペンを使って描かれた作品の数々。これが作品と見る人との距離をグッと縮めている効果があるようだ。ギャラリーやアートというと、一般的に難しそうという印象を抱きがちだ。しかし、ボールペンやシャープペンで描かれていると聞くと、一気に身近に感じられる。実際、地元の年配の方も多数訪れているそうだ。

後編につづく
 後編では、USUGROWさん、ozabuさんを中心に4名の作品をご紹介していきます。


■  HHH gallery
 ウェブサイト: hhhgallery.com
 インスタグラム:https://instagram.com/hhhgallery
 回廊日:土日祝日のみ (12:00 -20:00)


USUGROWさん個展開催のお知らせ
 ORGANIC CONTRAST - Artworks of Usugrow
 オーガニック・コントラスト - 薄黒の仕事展
 2015年8月21日(金) 〜 11月13日(金)
 at DIESEL ART GALLERY (渋谷1-23-16 cocoti B1F)
 http://www.diesel.co.jp/art/usugrow/



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