今回のシャープペン博士のディープ講座は、私自身がかねてより抱いていたひとつの疑問がきっかけで実現した。私が最も知りたかったのは、シャープペンのメンテナンス方法だ。各社の取扱説明書にもそうした記述は見かけられず、実際どうすればよいかわからなかった。
Lesson 2では、そのメンテナンスを含めてシャープペンの正しい使い方について、深掘りしたい。今回もぺんてるのシャープペン博士、ぺんてる株式会社 商品開発本部 シャープ企画開発部 部長 丸山茂樹さんに教えていただく。

今回の講座で色々とシャープペンについてわかりやすく教えていただいた
Lesson 2では、そのメンテナンスを含めてシャープペンの正しい使い方について、深掘りしたい。今回もぺんてるのシャープペン博士、ぺんてる株式会社 商品開発本部 シャープ企画開発部 部長 丸山茂樹さんに教えていただく。

今回の講座で色々とシャープペンについてわかりやすく教えていただいた
ぺんてる株式会社 商品開発本部 シャープ企画開発部 部長 丸山茂樹さん
■何回ノックして書きはじめるのが良いのか?
1回のノックでシャープ芯が出てくる長さについて、公のJISなどの基準は存在しないという。各社で決めているようだ。そして、ぺんてるには厳格な基準が存在している。
金属チャックの場合、0.5mmシャープペンで10回ノックすると、芯が5mm出る基準。つまり、ワンノックで0.5mm出るというものだ。ちなみに芯が少し太い0.7mmの基準は、10回ノックで6mmとやや長くなる。
金属チャックの場合、0.5mmシャープペンで10回ノックすると、芯が5mm出る基準。つまり、ワンノックで0.5mm出るというものだ。ちなみに芯が少し太い0.7mmの基準は、10回ノックで6mmとやや長くなる。

10回ノックしたところ、計ってみるとピッタリ5mmになっていた
ぺんてるがワンノックで0.5mmだけ芯を出すように設定しているのは、明確な理由がある。カチカチと2回ノックすると芯が1mm出て、書きはじめる際にちょうどよい長さになるからだという。1mm芯が出ていると、見た目にも芯が出ているとユーザーが認識でき、同時に折れづらく快適に書けるとペんてるでは考えている。ワンノックでいっぺんに1mmを出す設定にした方が、すぐに書き出せて便利だという考え方もある。
しかし、書き続けて芯が少しだけ残った状態で、ちょっとだけ芯を出したいというシチュエーションは結構ある。その時に1mmも出てしまうよりも、0.5mmの方が微調整がしやすいというわけだ。
しかし、書き続けて芯が少しだけ残った状態で、ちょっとだけ芯を出したいというシチュエーションは結構ある。その時に1mmも出てしまうよりも、0.5mmの方が微調整がしやすいというわけだ。
つまり、ぺんてる製シャープペンでは2回ノックで書きはじめるのがオススメである。
■メンテナンスは必要か?
「Mechanical Pencil(メカニカルシャープペンシル)」とも呼ばれるように、たくさんのメカパーツが動いて機能しているシャープペン。メカが動く訳だから車や機械のように定期的なメンテナンスが必要だろうと私は思っていた。私は思わず前のめりになって、永年抱いていた疑問を切り出した。丸山さんは私の質問にキッパリとメンテナンスはいらないと言い切った。

シャープペンに「メンテナンス」はいらないと語る丸山先生
シャープペンシルという機械の内部では芯が出たり入ったりが繰りかえされる。「チャック」も芯をつかみ離すを繰り返す。そうしたことにより、芯の表面が少しだけ削られ「芯カス」というものがたくさんたまっているはずである。それがシャープペンに悪さをしないのだろうか。
丸山さんいわく、そうした状態になることはまずないそうだ。少しくらいの芯カスなら特に問題はなく、むしろ良い影響があるくらいだという。
丸山さんいわく、そうした状態になることはまずないそうだ。少しくらいの芯カスなら特に問題はなく、むしろ良い影響があるくらいだという。

永年愛用している「グラフ1000」の先金をはずして内側の芯カスを出してみた。
芯カスと言ってもこの程度だ。
シャープペンの芯は黒鉛と樹脂がベースになっている。その中には油も含まれている。当然、芯カスにもこの油分が含まれている。それがパーツとパーツの間で、ある意味で潤滑油のような働きをしているのだという。
皆さんは、こんな生活の知恵をご存知だろうか。カギ穴にカギをさしこんだ時に、うまく回らなくなると(カギ穴が劣化してくると)、鉛筆の芯の削りカスを穴に入れるというアレだ。カギがスムーズに回るだけでなく、金属の劣化も防ぐ役割がある。
シャープペンの中でも同じようなことが行われているとも考えられる。
皆さんは、こんな生活の知恵をご存知だろうか。カギ穴にカギをさしこんだ時に、うまく回らなくなると(カギ穴が劣化してくると)、鉛筆の芯の削りカスを穴に入れるというアレだ。カギがスムーズに回るだけでなく、金属の劣化も防ぐ役割がある。
シャープペンの中でも同じようなことが行われているとも考えられる。
ぺんてるがメンテンス不要!と言い切れる自信は、他にもある。ぺんてるではシャープペンの耐久テストを行っている。
実際に芯を入れて数万回ノックをするというのだ!それでも芯が正確に出続けるという。
実際に芯を入れて数万回ノックをするというのだ!それでも芯が正確に出続けるという。
つまり、シャープペンのメンテナンスは不要ということなのだ!
(※ぺんてる製シャープペンに、純正ぺんてるシャープペン替芯を使った場合に限る)
■長い間使わない時にやっておくべきこと
このように丈夫なシャープペンだが、やらない方がよいということもいくつかある。たとえば、長く使わない時には「チャック」に芯をかませておく方が良いという。
「チャック」はバネで開いたり閉じたりさせている。芯をかんでいない状態というのは、「チャック」にしてみると、バネの負荷が一番かかっている状態なのだ。これは「チャック」にとってはきつい体勢ということになる。

長い期間使わない時は、このようにチャックに芯をかませておく
■「残芯」は潔く取り除く
2つ目は、「残芯(ざんしん)」になったら、短い芯を抜き出してしまうという点。「残芯」とは、残りの芯が短くなって、もはや「チャック」でつかみきれなくなり、「戻り止め」だけで支えている状態。よく短い芯がスルスルと動いて書きづらくなってしまうことがあるが、まさにそれだ。
実は、その「残芯」のすぐ後ろには新しい芯がすでに「チャック」にかまれている。それが「残芯」を押し出しているのだ。このままでも書けないことはないが、芯と芯のつなぎ目が次第に欠けたりしてしまうことがある。
そのため「残芯」になったら潔く取り除いた方がよい。一般的な「残芯」は10mm〜15mmほど。
実は、その「残芯」のすぐ後ろには新しい芯がすでに「チャック」にかまれている。それが「残芯」を押し出しているのだ。このままでも書けないことはないが、芯と芯のつなぎ目が次第に欠けたりしてしまうことがある。
そのため「残芯」になったら潔く取り除いた方がよい。一般的な「残芯」は10mm〜15mmほど。

短くなった「残芯」は潔く取り除こう
■残芯わずか3.5mmまで書き続けられるシャープペン
このシャープペンにとって宿命とも言える「残芯」。それに果敢に取り込んだシャープペンをぺんてるでは、すでに販売している。
「ドットeシャープ」、「ローリーシャープペンシル」だ。これらは「残芯」が3.5mmになるまで使えるのだ。
他のシャープペンに比べ、ペン先が特殊な作りになっていて、「チャック」と「戻り止め」と「スライダー」が連結されているのだ。最後まで大切に芯を使えるというエコの面のみならず、一本の芯を長く使えるので集中力をとぎらすことがないという点でもメリットはある。
「ドットeシャープ」、「ローリーシャープペンシル」だ。これらは「残芯」が3.5mmになるまで使えるのだ。
他のシャープペンに比べ、ペン先が特殊な作りになっていて、「チャック」と「戻り止め」と「スライダー」が連結されているのだ。最後まで大切に芯を使えるというエコの面のみならず、一本の芯を長く使えるので集中力をとぎらすことがないという点でもメリットはある。

「チャック」「戻り止め」「スライダー」が一体化されている。
■予備芯は入れすぎてはいけない
3つ目は芯タンクに芯を入れすぎてはいけないということ。ぺんてるでは6本が適当としている。ついつい芯がなくなるのがいやだからとたくさん入れてしまいがちだ。
どうしていけないかというと、芯をかんだ「チャック」はノックのたびに前後に動いている。まだ芯が長い状態だと、芯タンクの中でそのかんだ芯のうしろ側が行ったり来たりする。芯タンク内が芯でいっぱいにつまっていると、うまく芯が出なくなってしまうのだ。
どうしていけないかというと、芯をかんだ「チャック」はノックのたびに前後に動いている。まだ芯が長い状態だと、芯タンクの中でそのかんだ芯のうしろ側が行ったり来たりする。芯タンク内が芯でいっぱいにつまっていると、うまく芯が出なくなってしまうのだ。
“過ぎたるは及ばざるがごとし”である。

予備芯は6本までにしよう
■使いはじめのノックはペン先を下に向けて
4つ目は、これはやってはいけないほどではないが、知っておくと良い知識だ。
「チャック」にまだ芯がかんでいない状態からノックしてカチカチと芯をかませ始める時(つまり、新品での使いはじめや、新しい芯を入れた時だ)、ペン先を上にしたり、ペンを水平にしてもいっこうに芯は出てこない。芯タンクの芯は重力でペン先にいくので、ペン先を下にしてノックをする必要がある。
「チャック」にまだ芯がかんでいない状態からノックしてカチカチと芯をかませ始める時(つまり、新品での使いはじめや、新しい芯を入れた時だ)、ペン先を上にしたり、ペンを水平にしてもいっこうに芯は出てこない。芯タンクの芯は重力でペン先にいくので、ペン先を下にしてノックをする必要がある。
■純正芯を使うべし
ご存知の方も多いかもしれないが、0.5mmシャープ芯を実際に計ってみると0.5mmピッタリではない。JIS規格で0.55mm〜0.58mmの間にするようにという決まりがある。つまり、各社微妙に細さが違うのだ。ぺんてるはJIS規格のちょうどまん中にあたる0.565mmで作っているという。
ぺんてる製シャープペンの「チャック」や「ステンパイプ」は、ぺんてるのシャープ芯にピタリとあうように設計されている。当然のことながら他社の芯では一切テストは行われない。あくまでも自社のぺんてるシャープ芯を使って様々なテストを行っている。
ぺんてる製シャープペンの「チャック」や「ステンパイプ」は、ぺんてるのシャープ芯にピタリとあうように設計されている。当然のことながら他社の芯では一切テストは行われない。あくまでも自社のぺんてるシャープ芯を使って様々なテストを行っている。
つまり、ぺんてる製シャープペンは自社の芯を使った時に最大パフォーマンスが得られるように作られているのだ。

シャープペンは純正芯を使おう。
ぺんてるのシャープ芯のパッケージには「0.5」とだけ標記されている。
「0.5mm」とはなっていない。厳密に0.5mmではないからだという。
■良いシャープペンの見分け方
最後に丸山さんに店頭で良いシャープペンを見分けるポイントについてお聞きした。カチカチと5回ほどノックして芯を出し、それを戻してみる。「ステンパイプ」のまわりから芯カスが出ていないかを確認する。芯カスが出ているというのは、芯と「ステンパイプ」の内側がうまくあっていない証拠であり、品質の悪いサインでもある。
ぺんてるの「ステンパイプ」内側は角を少しだけなだらかにして、スムーズに芯が出入りできるような構造になっている。あとは、ノック音やノックの押し心地など、これらは好みで選べばいいという。
ぺんてるの「ステンパイプ」内側は角を少しだけなだらかにして、スムーズに芯が出入りできるような構造になっている。あとは、ノック音やノックの押し心地など、これらは好みで選べばいいという。

このようにステンパイプの周りに芯カスが出ていないかを確認
土橋が注目したポイント
- シャープペンがメインテナンスフリーというのは、かなり意外だった。使っていく中で自然に出てくる芯カスというものがメンテナンスに活かされているというのは、実に合理的である。万年筆は使い続けることで内部のインクの流れが常に生まれ、それがなによりのメンテナンスになると言われているが、シャープペンでも同じようなことが言える訳だ。シャープペンのためにもどんどんと使っていこうと思う。
- 今回の取材を通じて丸山さんからシャープペンの様々なことを教えていただいた。初めて知ることも多く、実に刺激的だった。今回教わった正しい使い方をしてシャープペンとこれまで以上に仲良く付き合っていこうと思う。まずは、純正芯を入れるというのは徹底しようと心に決めた。