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誰もが一度は使ったことがあるWB(ホワイトボード)マーカー。しかし、自分専用のものを持っているかと言われるとそうでもなく、会議室にあるものを使うというのがもっぱら一般的だ。そもそも、ホワイトボードマーカーは書いた文字等を人にみせるために使うということもあってか、苦手意識を持っている人は私を含め結構多い。

使うのをつい、ためらってしまうホワイトボードマーカーを誰でも心地よく使えるようにしたのが「ノックル ボードにフィット」だ。
今回はプロダクトデザインを担当されたぺんてる株式会社 柴田 智明さん、商品開発を担当されたぺんてる株式会社 小倉 和人さんにお話を伺った。
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ぺんてる株式会社 商品開発本部 デザイン室 プロダクトデザイングループ柴田智明さん。
オレンズ」や「エナージェル」シリーズのデザインも担当。
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 ぺんてる株式会社 商品企画本部 ペン企画開発部 ペン開発課 小倉和人さん。
「ノックル ボードにフィット」と同じスリット構造のペン先を持つ
筆文字ペンツイン」の商品開発も手がけた。


■グッドデザイン賞2016 ベスト100受賞
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今年で60年目を迎える「グッドデザイン賞」。毎年あらゆるジャンルから選出される。昨今は外観のデザイン性だけでなく、それを使うユーザーの行為も含めていかにデザインされているかが審査対象になっている。
その全ての受賞対象から特に高い評価を得たものに贈られる「グッドデザイン賞2016 ベスト100」に「ノックル ボードにフィット」は選ばれた。

審査を担当したプロダクトデザイナー倉本仁氏は「ベスト100 2016年度審査レビュー」の中で「ノックル ボードにフィット」についてこう語っていた。

どこがグッドデザインかというと、ペン先にイノベーションがある。やわらかい筆のような書き味になっているため、ホワイトボードマーカーに筆のようなニュアンスが出せる。これまでと同じ姿なのに、書いた時にゾクッとする。その書き味が本当に面白い。グッドデザイン賞の展示会場でこのホワイトボードマーカーを試しているユーザーを見ていると、マーカーではなく、ボードの方が優れていると勘違いしている人もいた。それほど衝撃を受ける書き味なのだ


■なかなか見えてこなかったホワイトボードマーカーの潜在ニーズ
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「グッドデザイン賞 ベスト100」に選ばれた「ノックル ボードにフィット」ではあるが、企画当初は、なかなかユーザーのニーズがつかみきれず困ったと柴田さんは当時を振り返る。

『ホワイトボードマーカーはいくつものメーカーが参入し、市場にはたくさんの種類があります。ノック式タイプをはじめ、カートリッジインキ式、インキのにおいがないもの、マグネットが付いてホワイトボードに付けておけるものなど・・・。ユーザーのニーズをそれぞれにくみ取ったものばかりです。そこで、改めてぺんてるでは、ユーザーアンケートを行ってみました。しかし、ホワイトボードマーカーに対する不満点はほとんど出てきませんでした。あったとしても、書いた時にインキがかすれる、ペン先が乾いてしまうということくらいでした。これらの不満点は、20年前にぺんてるから発売されている「ノックル」という商品で既に解決済みのものでした。』

もうこれ以上の改良をユーザーは望んでいないのだろうか・・・。商品開発スタート時は、こうした課題を探すことから始まった。
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柴田さんは、そもそもホワイトボードマーカーが根本的にどう使われているのかを考えてみた。
ホワイトボードマーカーは「人前で使う」、「人に見せるために書く」という特長がある。ノートに書く時は自分が見るために書くが、ホワイトボードマーカーは書いたものを別の人が見る。つまり、かならず見る相手がいるのだ。
この点が一般のペンと基本的に違うところであると、柴田さんは考えた。

また、ホワイトボードは独特の筆記スタイルを強いられる。

ノートに書く時は、ペンを持った手が紙や机に接していて安定感がありますが、ホワイトボードマーカーでは、手をボードには付けずペン先だけが接している状態です。支点が少なく、しかも小さいので書きづらいという面があります
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ユーザーアンケートでは、「ホワイトボードマーカーは書きにくい」というわかりやすいコメントは決して上がってくることがなかった。
一般の人にとって、ホワイトボードマーカーはちょっとだけ使うものという位置づけであることが多く、そもそも書きづらいという潜在ニーズ自体が上がってこなかったのだろうと、分析する。 


■ヘビーユーザーをターゲットに
そこで、ユーザーターゲットをホワイトボードマーカーのヘビーユーザーに絞り再び調査をおこなってみることにした。
塾の先生、セミナー講師、最近では会議の議事録をホワイトボードマーカーに図やイラストを交えて書く「グラフィックレコーダー」という専門職の人もいる。こうした方々を対象にインタビューを行った。すると、課題の輪郭が徐々に浮かび上がってきたという。

「自分がホワイトボードに書いたモノが人にハッキリ見えているか不安だ」50%
「思ったとおりに書けているか不安だ」40%
という声があがってきた。人に伝えるために書いているヘビーユーザーの方々にとって、ちゃんと伝わっているのかに不安を感じていたのだ。この伝わりやすさに的を絞って「ノックル ボードにフィット」の企画は本格化した。


■市場シェア30%を持つ「ノックル」ホワイトボードマーカー 
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「ノックル ボードにフィット」のベースとなった「ノックル」

ぺんてるの定番ホワイトボードマーカー「ノックル」は、発売からすでに20年経っている。他社商品よりやや高めの価格であるものの市場の30%シェアを誇る。今回の「ノックル ボードにフィット」は、20年前に発売された「ノックル」がベースになっている。

「ノックル」の最大の特長は、使っていてインキがかすれたら後端を数回ノックすればよいところだ。すぐにペン先はみずみずしくインキで満たされ、濃くクッキリとした筆跡で書けるようになるのだ。
そもそも「ノックル」は、ホワイトボードマーカーの中では珍しく生インキがボディの中にチャプチャプと入っている。販売されているホワイトボードマーカーは、中綿にインキを染みこませているものがほとんどだ。中綿タイプだとインキタンクの容積はどうしても小さくなり、インキは少ししか入らない。それに対して「ノックル」はインキがタップリと入っているのだ。
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実は、「ノックル」にも軸の先端側に少しだけ中綿がある。これはインキがいっぺんにペン先に行かないように調整するためのもの。万年筆でいうところの「ペン芯」の役割と同じだ。
ノックをすると、その先端が綿の中央にだけインキを送り込む。これによりペン先にすぐインキを供給できる仕組みだ。こうした機構は「ノックル ボードにフィット」にも継承されている。

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ノックをするとインキタンク内にある棒状のものが押し出され
ダイレクトにインキが送り込まれる
(写真はインキが入っていないサンプル)

土橋が注目したポイント
ペン好きの私も、ホワイトボードマーカーにはアウェー感(苦手意識)を持っている。縦面に書く、そしてなにより人前で見られながらというのが、さらに緊張を大きくさせてしまう。書いていて楽しいと感じたことは正直あまりない。「ノックル ボードにフィット」は発売当初から個人的に注目をしていた。詳しくは後編の書き味インプレッションで紹介するが、ほどよくしなるペン先により、苦手意識がすっかりうすらいだ。文字が上手くなったかどうかはあまり自信はないが、少なくとも心地よく書けるようになっている。