前編では「ノックル ボードにフィット」の企画背景、そしてベースとなった「ノックル」の特長についてご紹介した。後編では、ペン先の材質、書き味インプレッションについて掘り下げてみたい。
■ホワイトボードマーカーで初となる「ナイロン」ペン先
「ノックル ボードにフィット」のペン先はナイロンで出来ている。さらっと言ってしまったが、実はこれはとっても画期的なことなのである。まずはそのへんからご説明していこう。
ぺんてるも含めて、従来のホワイトボードマーカーのペン先はポリエステル製。ポリエステルは耐久性があり、硬いという特長がある。
この硬さはおそらく多くの方にとって実感があると思う。よくホワイトボードマーカーで書くと、コツコツとまるでホワイトボードにたたくような音がする。それはこの硬いポリエステル製ペン先のためだ。しかも、ホワイトボードの表面がツルツルしている。たとえるなら、プラスチックカードにボールペンで書くようなもので、コツコツ硬いタッチで、しかもツルツルしていて滑ってしまう。
ホワイトボードに書くというのは、実はこういう書きづらい筆記環境だったのだ。アウェー感(苦手意識)を持つのもある意味仕方ないことだったとも言える。
ぺんてるも含めて、従来のホワイトボードマーカーのペン先はポリエステル製。ポリエステルは耐久性があり、硬いという特長がある。
この硬さはおそらく多くの方にとって実感があると思う。よくホワイトボードマーカーで書くと、コツコツとまるでホワイトボードにたたくような音がする。それはこの硬いポリエステル製ペン先のためだ。しかも、ホワイトボードの表面がツルツルしている。たとえるなら、プラスチックカードにボールペンで書くようなもので、コツコツ硬いタッチで、しかもツルツルしていて滑ってしまう。
ホワイトボードに書くというのは、実はこういう書きづらい筆記環境だったのだ。アウェー感(苦手意識)を持つのもある意味仕方ないことだったとも言える。
見た目からして大きく違うペン先。
左が従来のポリエステル製ペン先の「ノックル」、右がナイロン製「ノックル ボードにフィット」。
一方、ナイロンという素材は、ポリエステルよりもずっと柔軟性がある。実は化粧品道具のアイライナーなどにもナイロンは使われている。それならば、そのやわらかいナイロンでホワイトボードマーカーを作ればよいではないかと誰しも思うことだろう。
しかし、話はそう簡単ではない。ナイロンは、ホワイトボードマーカーに使われているインキなどの溶剤との相性がとても悪い。ナイロンの膨潤(ぼうじゅん)性というものがあり、インキを含ませるとふくらんでしまうのだ。ポリエステルもナイロンもミクロの世界では繊維状になっていて、そのすき間をインキが通っていく。ナイロンだと膨張して、そのすき間が狭くなってインキ詰まりを起こしてしまうのだ。しなやかさはあるが、こうした理由でこれまでずっと敬遠されてきた。
■そもそもホワイトボードマーカーはなぜ消せるのか?
もし間違って、油性マーカーでホワイトボードに書いてしまったら、その上からホワイトボードマーカーで塗りつぶすようにして書いて、イレーザーで消せばいい。
ちょうどホワイトボードマーカーの「剥離剤」を混ぜ合わせたような状態になり、普通の油性マーカーの筆跡を浮かして消すことができるのだ。いざという時のために知っておくと便利だと思う。
しかし、話はそう簡単ではない。ナイロンは、ホワイトボードマーカーに使われているインキなどの溶剤との相性がとても悪い。ナイロンの膨潤(ぼうじゅん)性というものがあり、インキを含ませるとふくらんでしまうのだ。ポリエステルもナイロンもミクロの世界では繊維状になっていて、そのすき間をインキが通っていく。ナイロンだと膨張して、そのすき間が狭くなってインキ詰まりを起こしてしまうのだ。しなやかさはあるが、こうした理由でこれまでずっと敬遠されてきた。
左が「ノックル ボードにフィット」の商品企画のぺんてる株式会社 商品企画本部 ペン企画開発部 ペン開発課 小倉和人さん。
右がデザイン担当のぺんてる株式会社 商品開発本部 デザイン室 プロダクトデザイングループ柴田智明さん。
その難題に、小倉さんは立ち向かった。これまでのホワイトボードマーカーのかたい書き味を改良し、もっとやわらかくできないかと。もともと小倉さんは筆ペンの商品開発を入社以来手がけている。ペン先のしなりには並々ならぬこだわりがあるのだ。
詳しいことは教えてもらえなかったが、ナイロンでもアルコール系インキに対応できるペン先を試行錯誤の末、開発することができた。
小倉さんは、早速そのナイロンのペン先でホワイトボードマーカーを試作した。使ってみると、まずまずの書き味ではあったが、いまいち心地よさがなかったという。柔軟性はあるが、しなりにメリハリがなかったのだ。
小倉さんは、早速そのナイロンのペン先でホワイトボードマーカーを試作した。使ってみると、まずまずの書き味ではあったが、いまいち心地よさがなかったという。柔軟性はあるが、しなりにメリハリがなかったのだ。
■ペン先にスリットを入れるという発想
小倉さんの理想とするのは、コシがほどよくあるしなりだ。ペン先全体がクニャクニャとやわらかいのではなく、ペン先はやわらかく根元にはコシがあるというメリハリがあるものだ。ちなみに、小倉さんは「筆タッチサインペン」の商品開発も担当している。まさにあのような書き味なのだろう。
ナイロンという素材は、物理的に根元のところだけを硬くするということが出来なかったため、ペン先にスリット(溝)を入れるという方法を小倉さんは思いついた。スニーカーのソールやクネクネ曲がるストローから発想したそうだ。
ナイロンという素材は、物理的に根元のところだけを硬くするということが出来なかったため、ペン先にスリット(溝)を入れるという方法を小倉さんは思いついた。スニーカーのソールやクネクネ曲がるストローから発想したそうだ。
ペン先も筆ペンの穂先を思わせる先端が細くなっているスタイルである。
ホワイトボードマーカーのペン先の中では珍しい形だ。
ボディデザインは、あくまでも従来の「ノックル」スタイルにこだわっている。
「ノックル」の信頼感、ホワイトボードマーカーらしさを伝えたかったからだという。
■そもそもホワイトボードマーカーはなぜ消せるのか?
意外と知られていないが、ホワイトボードマーカーは油性マーカーである。インキの主成分は油性マーカーと同じ顔料・溶剤・樹脂。ホワイトボードマーカーには、それに加え「剥離(はくり)剤」というものが含まれている。その点がだけが違う。
ペンのインキタンクの中に入っている時は分散されているが、いざボードに書くと、インキ(顔料・溶剤・樹脂)の下に「剥離剤」がいくのだという。つまり、「剥離剤」の上にインキが乗っかっている状態。これにより消そうと思えば消せるのだ。この仕組みは知っておいて損はない。
ペンのインキタンクの中に入っている時は分散されているが、いざボードに書くと、インキ(顔料・溶剤・樹脂)の下に「剥離剤」がいくのだという。つまり、「剥離剤」の上にインキが乗っかっている状態。これにより消そうと思えば消せるのだ。この仕組みは知っておいて損はない。
もし間違って、油性マーカーでホワイトボードに書いてしまったら、その上からホワイトボードマーカーで塗りつぶすようにして書いて、イレーザーで消せばいい。
ちょうどホワイトボードマーカーの「剥離剤」を混ぜ合わせたような状態になり、普通の油性マーカーの筆跡を浮かして消すことができるのだ。いざという時のために知っておくと便利だと思う。
■書き味インプレッション
ペン先をホワイトボードに添えると、細く尖ったペン先だけが優しくしなる。まさにソフトタッチという感じだ。
この筆圧をあまりかけない状態なら根元にはしっかりとコシがあり、ペン先のコントロールもしやすい。次にグイと力を入れてみると、根元のコシはありながらもペン先全体が大きくしなっていく。このしなるという動きのせいだろうか、インキがタップリと絞り出されてきて、太いだけでなく筆跡も濃くなる。
この筆圧をあまりかけない状態なら根元にはしっかりとコシがあり、ペン先のコントロールもしやすい。次にグイと力を入れてみると、根元のコシはありながらもペン先全体が大きくしなっていく。このしなるという動きのせいだろうか、インキがタップリと絞り出されてきて、太いだけでなく筆跡も濃くなる。
これまでのホワイトボードマーカーには少なからず慣れが必要だったが、これはあくまでも普通に書いていくだけでよい。
ひとつの文字を書く時に筆圧に強弱を付けると、面白いように抑揚のある筆文字になっていく。文字の強弱が自在につけられ、自分の感情を文字にのせていける。これこそ柴田さんが狙った「伝わる」文字が書けるということなのだろう。
キレイな文字を書いていけるということと、ペン先をコントロールできているという安心感が書くことに対して積極的にさせてくれる。
キレイな文字を書いていけるということと、ペン先をコントロールできているという安心感が書くことに対して積極的にさせてくれる。
土橋が注目したポイント柴田さんは、ホワイトボードマーカーの特長として「消されることが前提のペン」というお話をされていた。たしかに、一般のペンは書いたり消したりはすることもあるが、基本は残していく。しかし、ホワイトボードマーカーは、書いたものはどんどん消され、新しいものに更新されていく運命にある。そのため書かれた文字が人の目に触れる時間も当然短くなってしまう。だからこそ、見る人により強い印象を残す表現力が求められている。
この「ノックル ボードにフィット」は、まさに印象に残せるホワイトボードマーカーである。そして、書きづらいというこれまでの「アウェー(苦手意識)」なイメージを心地よく書ける「ホーム(得意)」に替えてくれるマーカーでもある。感じるままに想いをかたちにできる筆記具だ。