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うしおととら」、「からくりサーカス」、「月光条例」などの代表作を次々に世に送り出し、現在も最新作「双亡亭壊すべし」を少年サンデーに週刊連載をしている漫画家、藤田和日郎さん。およそ30年という長きにわたり、第一線で漫画を描き続けている。

週刊連載の1話分が終わったばかりのとある日曜日、藤田さんの仕事場にお邪魔した。藤田さんの創作スタイルはとても個性的だ。ペンだけでなく事務用の修正液や割り箸なども駆使し描かれている。今回、藤田さん独特の世界観を作り出すために大いに活躍している数々の筆記具、そして創作スタイルについてお話を伺ってきた。
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現在、「少年サンデー」に週間連載中の
双亡亭壊すべし


■活躍しているのはアナログ筆記具
開口一番「私はパソコンを漫画制作に一切使っていません」そう語るように、仕事場をグルリと見回してみても机の上にはパソコンやデジタルツールの類はひとつもない。あるのは、使い込まれたデスクマットといくつもの筆記具だ。

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 まず、藤田さんの日頃の創作スタイル、そしてその時に手にする道具について伺った。

漫画制作は「ネーム」をつくるところから始まる。「ネーム」とは、藤田さん曰く「下描きの下描き」。1話分のストーリーをラフにまとめた設計図のようなものだ。藤田さんのネームは、B5のごくふつうの横罫線ノートに描かれていた。ノートにはコマ割りが引かれ、細かな描きこみこそないが登場人物がどう展開していくかが台詞も交えてひとつひとつ描かれている。
この作業だけは藤田さんが一人で行う。大体2〜3話で一冊のノートを使いきり、終わったものは潔く処分をしてしまうという。
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連載中の「双亡亭壊すべし」の「ネーム」が描かれたB5ノート
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これが藤田さんのネーム。
デビュー前、漫画を編集部に持ち込んでいた時代からB5の横罫線という
ごく普通のノートを使い続けている。

この「ネーム」を描く時に使っているペンは、パイロット「ドクタークリップ」の0.5mmシャープペン。ボディを振ると芯が出てくるタイプだ。藤田さんは、この「ネーム」を練る時が一番頭を使うという。頭にある “まだ曖昧な発想のシッポをたぐり寄せていくようなものだ” と藤田さんはたとえる。どのシッポが果たして正しいのかわからない。
それらを考え描き出していく時、スピード重視の結果、行きついた筆記具ということだった。

藤田さんはもともと筆圧が強い。中に入れている芯にもこだわりがある。柔らかめの2Bにしているという。硬めのHBで書くと、紙に書いた紙面がえぐれたようになってしまうそうだ。その状態だと消しにくくもなってしまう理由から2Bを選んでいる。
消しゴムは、トンボの「モノ」。使い込まれてすっかり小さくなっているが、もともとはかなり大きいタイプだ。大きい面を一気に消すことも多く、大きいほうがスピーディに消せるという。やはりここもスピード重視だ。
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こうして練り上げられた「ネーム」をもとに編集者と打ち合わせを行い、必要に応じ微調整を加えていく。
私たちが取材にお伺いした日は、ちょうど次回の「ネーム」が出来上がったばかりのタイミングだった。


■荒いタッチも出せる「カブラペン」
「ネーム」が完成したら、次にいよいよペン入れ作業に進む。B4の漫画専用原稿用紙に描いていく。
この時、手にするのは付けペンの「カブラペン」というものだ。
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藤田さんはこちらの漫画専用原稿用紙を使っていた

漫画制作では「Gペン」というものがよく使われると聞いたことがある。「カブラペン」と「Gペン」は、どう違うんですか?とお聞きしてみると、藤田さんが引き出しを開けてそれぞれ実物を私の手のひらに乗せてくれた。
「Gペン」はフラットな構造で板の厚みもうすく柔らかそうな印象だ。一方「カブラペン」は丸みを帯びて、厚みもかなりある。描き味は「カブラペン」の方がやはり硬めだという。
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前が「カブラペン」、後が「Gペン」

藤田さんはご自分で描く線を「荒っぽい」と表現する。
その荒々しいタッチで描いても硬めの「カブラペン」はしっかり藤田さんの筆圧を受け止めてくれるそうだ。「Gペン」はどうしても柔らかいため、強い筆圧で描くとペン先が2つに割れて元に戻らなくなってしまうこともあるのだとか。
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その「カブラペン」を木製軸(ブラウゼ製)の両側にセットするのが藤田さん流。片方には使い込んだものを、そして反対側には新品を付けている。

私は使い込んで細い線が出なくなった状態の方が好きなんです。自分らしい太い線が描け、ペン先がこなれて柔らかさも出てきます。新品は硬さがまだあり、細い線を描くのに適しています。その両方を使い分けるために一緒にセットしているんです

古い方の「カブラペン」がいよいよ使えなくなったら、外して新品の「カブラペン」をセットしていく。
こうしていけば、常に新旧カブラペンを使いこなせるようになる。


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木軸の両側に新旧の「カブラペン」をセットして描かれている
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「カブラペン」を駆使して描かれた原画
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インクは一般的な製図用インクを使用している


■漫画を描く時にこだわることとは?
漫画には音もなければ、絵も動きません。一枚の絵で読者に訴えかけなくてはなりません。だから一本一本の線に感情や情念を入れ込むようにしています。なんの感情もなく描いたら、読者をストーリーの世界に引きずりこむことができません。漫画家の中には速く描くということにこだわる人もいます。私の場合は速さよりも線にどれだけ情念を込められるかなんです。だから私はゆっくりと描いて、そのぶん情念を込めていきます


■漫画制作に欠かせない「修正液・細先端」
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こうしたペン入れの際に欠かせないと藤田さんが強調するのが「修正液」だ。藤田さんが修正液を使い始め初期の頃は、ハケ式のものが一般的だった。塗ったあとにハケ跡がついたり、使っていくとだんだんハケがボサボサになったり・・・思うように使うことができなかったと当時を振り返る。

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この「修正液・細先端」が出たときは待ってました!という感じだったという

その後、ぺんてるの「油性・水性インク両用」という、いわゆる目薬のようなボディのものを経て、現在はぺんてる「修正液・細先端」を愛用されている。
藤田さんが気に入っている点は、ボディをギュッと押せば修正液を出す量を自分の思い通りに調整できるところだ。他の修正ペンだと、ボディが硬くて押しづらい。
ぺんてるの「修正液・細先端」は、藤田さんが思った通りに使いこなせ、自分がコントロールして使っていると実感できるものであるという。登場人物の目の縁だけを消すという繊細な修正から、ボディを押して修正液をタップリ出して広い面を修正するというところまで、自在に操れるという。漫画制作に使う修正液はぺんてるの「修正版・細先端」しかないと藤田さんは断言する。
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ギュッと押すと意のままにインクの量を調整できる

そもそも藤田さんは、なぜ漫画制作に修正液を使うようになったのだろうか?

私はとにかくよく間違えるんです。ふだんあまり下描きをしないこともあり、ペンで書いては修正しながら描いていきます。ぺんてるの『修正版・細先端』は乾くと表面がとてもなめらかになってくれます。さらに間違ってその上からまた修正液で消すことがあっても、いくら塗り重ねても大丈夫なんです。たまに、修正を繰り返しすぎてあまりにも表面が盛り上がってしまった時は、カッターで修正液の盛り上がった所を削ることもあります。そうすれば元に戻せますからね
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完成原稿を拝見すると、たしかに何カ所も修正液の跡が見られた

修正液で消した所にペンを入れていくとのことだが、ペン先の先端は鋭く硬い。描いていて修正面を削ったりなどしないのだろうか?

私のこのような修正液の使い方を他の漫画家の方に言うと、同じような反応がよくあります。そういう人たちに言いたいのは、一度実際に使ってみて欲しいということ。『修正液・細先端』はそんなに高くないのですし

そう言って、「修正液・細先端」で修正した上から藤田さんのいつもの強い筆圧で新たな線を入れて見せてくれた。なるほどたしかに見ているこちらにもその気持ち良さが伝わってくるくらいにスムースに描かれていく。
藤田さん曰く、ペンは動かし方次第なので、試してみれば修正箇所を削らない方法がわかるということだ。
 

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修正した上から気持ちよさそうにペンを走らせる藤田さん

藤田さんの修正液活用は修正のためだけにとどまらない。描く道具としても大いに役立っている。たとえば、黒ベタの上に白い稲妻を描く時などにも修正液が活躍する。
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藤田さんは「うしおととら(1990〜1996年)」の連載時からぺんてる「修正液・細先端」を使っていた。そのころの原画を今見ても修正液で消したところにヒビが入ったり、色が変わるなど全くないという。こうした点も藤田さんが信頼を寄せているポイントだ。

藤田さんにとって、ぺんてるの「修正液・細先端」はどんな存在なのだろうか?
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なくてはならない相棒です。たとえるなら『うしお』にとっての『とら』のような存在です。ペンはなくても他のもので代用できますが、この修正液がないと私は描くことが非常に難しくなります。常に仕事場には予備がストックしてあります。アシスタントも使っていて、みんな「青カチャ」と呼んでいます。もし、このぺんてる『修正液・細先端』がなかったら、私の漫画の完成は間違いなく2日遅れるでしょうね。週刊連載で2日遅れるのは致命的です。私と『修正液・細先端』は共依存の関係にあるんです(笑)
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藤田さんの仕事場は、ぺんてる「修正液・細先端」のストックがわんさとある
土橋が注目したポイント
  • 一本一本の線に情念を込めているというお話は、とても興味深かった。たしかに藤田さんの作品を拝見すると、描かれた人物・風景から独特な重厚感みたいなものが伝わってくる。その並々ならぬ情念を納得いくように描くために、使われるのが修正液なのだろう。少しでも違うと思った線はすぐさま修正液で消され、その上に納得の「情念線」が引かれていく。と考えるならば、修正された箇所は藤田さんの情念が折り重なり、より強い情念が込められていると言える。
     

後編では、割り箸を使った創作スタイル、道具選び、ストーリーの作り方に話は進んでいきます。

プロフィール
藤田和日郎 (ふじた かずひろ)
北海道出身。1988年、第22回新人コミック大賞入賞を経て、1989年、第2回少年サンデーコミックグランプリにて、『うしおととら』で入賞し、連載開始。 1991年、『うしおととら』で、第37回小学館漫画賞・少年部門を受賞。 代表作『からくりサーカス』『月光条例』。 2016年週刊少年サンデー17号より『双亡亭壊すべし』を連載。

■公式Twitter https://twitter.com/ufujitakazuhiro