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様々なメディアで台湾特集が組まれるなど、今注目を集める台湾。その台湾でここ数年文房具のブームがわき起こっている。それは日本の文具ブームとひけを取らないほど。その火付け役の一人であり台湾の文具界で知らない人はいないというくらい有名なタイガー・シェン(沈昶甫)さん。現在は文具セレクトショップを2店舗展開し、その他に本の執筆、オリジナル商の開発、文具のコンサルティングなど文具を軸足に幅広く活躍されている。そんなタイガーさんがどんな経緯で現在のような活動を行うようになったのか、さらには台湾の文具トレンド、ぺんてるプロダクトへの思い入れなど、色々とお話を伺った。

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2017年12月に出版されたタイガー・シェンさんの最新刊「直感文具」

■ 小学生の時に文具に目覚める

文具の楽しさを知ったきっかけはお父さんだったという。タイガーさんのお父さんは、インテリアデザイナーとして製図の仕事をされていた。自宅の書斎には製図のための文具がたくさん並んでいたという。小学生だったタイガーさんはお父さんがいないすきに書斎に忍び込んではそうした製図の文具や道具をいじっていた。製図用の三角定規や書いたことのないほど硬い書き味の製図用鉛筆などがあったという。ふだん勉強で使っている文具とは違うものばかりで、タイガー少年はすっかり心を奪われてしまった。

そうした珍しい文具をこっそりと持ちだしては学校に持って行っていた。友達に見せると、みんな興味津々だったという。それを見てタイガーさんはとても誇らしい気持ちになったそうだ。人と違う個性的な文具を持つ喜びをこの時タイガーさんは知った。

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取材は、2017年某日ぺんてる本社で行った

また、同じ頃もうひとつの文具との出会いがあった。それは日本製文具。当時、日本人の親友がいた。彼のお父さんは胡蝶蘭の栽培を学びに家族で台湾に移り住んでいた。彼が学校に持って来ていたのは、もちろん日本の文具だった。その頃まだ日本の文具は台湾でとても珍しく、親友ということでタイガーさんは、彼の日本文具をいち早く見せてもらえていた。色々と見せてもらった中で一番印象的だったと話すのは、ナショナルの電動鉛筆削り。その当時、台湾には電動タイプがなかった。しかもそのナショナル製のものは削りストッパーが搭載されていなかった。鉛筆を穴に入れていると、ひたすら削り続けることができた。それがとても面白かったという。

こうした製図用のプロ文具、日本製文具との出会いがタイガーさんのその後の文具人生を変える分岐点となった。

■ 台湾で新たな文具トレンドを作り出したブログ「文具病」

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ブログ「文具病」

その後もタイガーさんの文具愛は少しも衰えず、逆に成長とともにどんどん膨れあがっていった。そして2009年にブログ「文具病」をスタートさせた。

「私は記憶力があまりよくないんです。これまで買い集めてきた文具のことを一度しっかりとまとめておきたいと考えていました。つまり自分のための『文具アーカイブ』という目的でブログをはじめたんです。」

当時台湾で文具と言えば、文具の見た目ばかりに注目が集まっていた。わかりやすく言えば、キャラクター文具などがもてはやされていた。「文具の魅力はそれだけではない、もっと違う角度で文具を紹介したい」という気持ちがタイガーさんの中で大きくなっていった。そのこともブログをはじめようとする気持ちを後押しした。

そこでスタートしたのが「文具病」タイガーさんは文具を好きというのを通り越して、もはや病的なほどに好き!であると認識していたので、この名前にしたという。コンセプトは機能性が高く、その文具に物語があるもの。ぺんてる製品で一番はじめに紹介したのは、ぺんてるの「サインペン」「ボールぺんてる」だった。いずれも書きやすく「サインペン」は宇宙で使われたという物語があり、「ボールぺんてる」はペン先のチップに樹脂を使うという新しさがあった。そうした点を丹念に紹介していった。

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サインペン(写真はブログ「文具病」より抜粋)
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ボールぺんてる(写真はブログ「文具病」より抜粋)

その後も様々な文具が「文具病」で紹介されていった。その中で日本文具の割合はとても高く、70%にも及んでいる。その頃まだ台湾では、それほどたくさんの日本文具は販売されていなかったというともあり、多くの文具ファンの注目を集めた。

ところで、タイガーさんはたくさんの日本文具をどのように集めているのだろうか?

「大学卒業後、台湾にある日系企業に3年間勤めた後、日本へ行き1年間日本語学校に通っていました。その時に、よく世界堂や伊東屋を訪れ、気になる日本文具を買っていたんです。」

台湾の人たちにとってはまだ珍しいそうした日本文具を紹介し、ひとつひとつの文具の物語やディテールも解説していったことで瞬く間にファンが増え、「文具病」のフォロワーは25,000名にまでなっていった。

■ 文具セレクトショップをはじめる

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一号店「直物(Plain Stationery & Homeware)」

現在、台北で2店舗の文具セレクトショップを展開しているタイガーさん。実は当初ショップをオープンする予定はなかったという。オープンのきっかけはブログの読者だった。次々にブログで日本の文具を紹介すると、読者もすっかりその魅力に惹きつけられ、当然の流れとしてその文具が欲しくなる。「その文具はどこで買えますか?」という問い合わせが相次いだ。そうした声に応える形でショップの展開をはじめたという。

とは言え、すぐにショップをオープンしなかった。台湾の文具ファンは文具を機能面で見ていくというスタイルがまだまだ浸透していないとタイガーさんは考えていた。2009年にブログをスタートさせ、4年間という期間を踏んでタイガーさんの考える「文具観」をユーザーにたっぷりと啓蒙した上で、満を持してショップをオープンさせていった。2013年に1号店「Plain Stationery & Homeware(直物)」を開店した。文具や道具にはあまり派手な飾りは要らないと考えるタイガーさんだけに、その想いを込めて「Plain」と名付けた。コンセプトはブログと同じ、機能性と物語があるものだ。

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2号店「直物(Plain Stationery Homeware & Cafe)」

1号店をスタートしてからわずか3年後に2号店もオープンさせている。2号店は「Plain Stationery Homeware & Café」。ここではカフェスペースも併設している。

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■「Plain Stationery」で人気の文具とは?

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「よく売れる文具は時期によって変わります。秋頃ですと手帳が人気です。ブラウニー手帳、ダイゴーのプロジェクトダイアリー、トラベラーズダイアリーなどです。それ以外ですと、カリグラフィーとインクもよく売れています。」

日本の手帳が人気とはちょっと意外な気もする。というのも祝日が日本仕様になっている。そうしたものが果たして台湾のユーザーにとって使いやすいのだろうか?

「日本の手帳は、とても書きやすい工夫が随所に凝らされています。台湾のユーザーにとって祝日のことはそんなに気にならないようです。」

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ひとつの文字に線の抑揚があるカリグラフィー

もうひとつ人気だというカリグラフィーとは、西洋書道とも呼ばれる美しい英語を書くものだ。付けペンとインクを使う。このカリグラフィーは、今やタイガーさんのショップだけでなく幅広く台湾で人気が高まっているという。このブームの火付け役はタイガーさんと語る。書き方などをわかりやすくブログで解説したり、教本まで出版しているほどだ。タイガーさんとしては、ある考えがあってカリグラフィーを扱いはじめた。台湾では、万年筆専門店はすでにいくつもあった。同じことをしても差別化ができない。一方で台湾では万年筆のインクがブームになっていた。何色ものインクを買い集めているユーザーも多かった。その買い集めたインクを有効活用する意味でカリグラフィーは最適だとタイガーさんは考えた。カリグラフィーは付けペンで書くので色々なインクが楽しめる。しかも太い筆跡も多いのでインクの消費も早い。そして、そもそも台湾は英語教育が進んでいて、多くの人が英語に馴染んでいるという背景もあった。タイガーさんの狙いはズバリ当たった。

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Plain Stationeryでは、色々なオリジナル文具も販売している。その中でユニークなのは「紙鉛筆」。キットになっていて芯に一枚一枚紙をボンドで巻き付けていく。大体4〜5枚くらい巻き付けると鉛筆くらいの太さになる。色の違う紙を貼り合わせると、削った時にその美しい層が楽しめる。

土橋が注目したポイント
  • 人と違う文具を持つ喜びを小学校時代ですでに目覚めていたというタイガーさん。実は私も全く同じ気持ちを小学生の頃から感じていた。私の場合は親に連れていってもらったライフスタイルショップで出会った海外文具がそのきっかけだった。タイガーさんとは、もう何年ものおつきあいをさせてもらっている。初対面の時から気が合うと感じていた。お互い文具好きということだけでなく、文具の魅力にはまるきっかけも同じだったのは、個人的にうれしい発見だった。  

プロフィール
Tiger Shen(タイガー・シェン)
1974年生まれ。2009年に開設したブログ「文具病」を通じ日本文具の良さを台湾文具ファンに発信しはじめる。現在は、ショップ「直物(Plain Stationery)」のオーナーとして日本をはじめ欧米の文具の販売を行っている。「直感文具」「文具病」など著書多数。流ちょうな日本語を話す。最近はコーヒーバリスタの資格も所得しているという。
■ショップ「直物(Plain Stationery)」:https://plain.tw
■ショップ「直物」Facebook:https://www.facebook.com/plain.tw/
■ブログ「文具病」:http://www.stationeria.net ※ 現在は更新休止中

「サインペン」商品詳細ページ

http://www.pentel.co.jp/products/signpen/pentelsignpen/

「ボールぺんてる」商品詳細ページ

http://www.pentel.co.jp/products/ballpointpens/waterbased/ballpentel/