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ここ数年の文具市場をグルリと見回すと、限定版というものが人気だ。その多くが限定カラー。そうした中で色のない透明フォルムで人気を集めているのが「エナージェル インフリー」だ。2018年2月に発売を開始したところ、「エナージェル インフリー」による手書き投稿などがSNSで拡散され一挙に人気に火が付いた。売り場では売り切れするところも出るほどだった。

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前編では、「エナージェル インフリー」で描く、ぺんてる総合カタログの表紙デザインコンテストの受賞者オオジカオリさんのインタビューをお届けした。今回はそれを描きだすのに使われた筆記具「エナージェルインフリー」の魅力に迫ってみたい。商品を企画されたぺんてる株式会社 国内営業本部 マーケティング推進部 プロダクトマーケティング課 内村篤史さん、商品開発本部 デザイン室 プロダクトデザイングループ 森田真央さんに開発秘話などを伺った。

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■ コンセプトは今までの既成概念にとらわれない自由なエナージェル
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限定品を出すにあたり、まずターゲットを設定することから始まった。日本では2016年頃から政府によって働き方改革が進み、「新しい働き方」という波を自分ごとに受け入れ、働くための工夫やチャレンジに積極的な人物をターゲットにしたという。もともと「エナージェル」はビジネスパーソンをターゲットにしていたが、今回の「エナージェル インフリー」では、より具体的な人物像が上記のように設定された。

「新しい働き方」というコンセプトが決まり、内村さん、森田さんの頭にまず浮かんだのは場所を選ばず仕事をする「ノマドワーカー」だった。しかし、周りを見ても、マスコミで騒がれているほどには、そうした人を見かけることができなかった。ちょっとリアル感に乏しいように思われ、「ノマドワーク」はあえて外すことになった。そこで、もっと身近なビジネスパーソンの方々に的を絞り、従来の組織に属しながらも何かを変えたいと願っている人が使うペンというポジショニングが固まっていった。

なお、「インフリー(infree)」というネーミングは造語で、既成概念にとらわれない自由という考え方が自分の中に入っている(in)という意味が込められている。


■ 既成概念を取り払った自由なカラー
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「エナージェル インフリー」でユーザーの注目を最も集めたのが、ターコイズブルーやオレンジという、ビジネス用のペンではちょっと目新しい色を取り入れたことだ。

「重要なところを書き込む時にいつもの赤ばかりでなく、オレンジで書いてもいい。いつもと違うモードで発想したいならターコイズブルーでもいい。ルールはなく、それこそ自分の自由に決めればいいんです」そう語る内村さん。

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色数はユーザーの選びやすさを考えて、5色と絞り込んでいる。
ブラック、ブルー、ブルーブラック、オレンジ、ターコイズブルー


■ 透明軸から見える美しいインクカラー
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そもそも「エナージェル」とは、インクの名前である。インクをボールペンのネーミングにするほど、このペンの最も際立った特長である。その「エナージェル」らしさを出すにはどうしたらいいかを考えた結果、生まれたのがインクを直に感じてもらえる透明軸だった。

基本のボディ形状は、従来の「エナージェル」と同じだ。「エナージェル」の軸材に使われている素材はポリカーボネート。透明度に優れた素材だった。さらに従来からの軸構造も透明軸にするあたり都合がよかった。「エナージェル」リフィルは少し太めになっている。それをしっかりと固定するため軸が肉厚構造をしていた。透明にしたことで、その肉厚がちょうどガラス効果のようなものを生みだしクリアな印象に仕上がった。

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一方で、計算外なことも起こるのも商品開発にはつきものである。「エナージェル インフリー」のもうひとつの特徴と言ってもいいのが、リフィルパイプをインク色に着色している点だ。従来のものは、リフィルパイプが乳白色の曇りガラス状。もし、そのままだったらせっかくの透明軸もあまり活かされなかったことだろう。しかし、このリフィルパイプを着色するという点が製造現場で強い反発を招いた。ぺんてるでは製造ラインでリフィルにインクを充填する際に、適切な分量が入っているかをセンサーでチェックしている。着色してしまうことでセンサーが感知しずらくなってしまうのだ。デザインを担当した森田さんとしては、どうしてもこのリフィルパイプの着色を行いたいと考え、製造ラインの話題まで踏み込んで交渉した。そんなデザイナーと製造現場との良いモノを作るための摩擦がありながら、エナージェル インフリーは完成していった。

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そんなエピソードを聞くと、「エナージェル インフリー」が、人間が大いに関わって作り上げられているという温かみを私は感じた。


■ 透明という分かりやすさは人を前向きにする
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「エナージェル インフリー」を透明軸にするにあたり、ひとつヒントになったことがあったという。当時CMでも話題になったサントリーのコーヒー飲料「クラフトボス」だ。ちょうど「新しい働き方」を調べている中で森田さんの目にこのCMがとまった、このコーヒー飲料は中身の見える、透明なペットボトル飲料(500ml)だ。内村さんと森田さんは様々な人を介し直接話を聞きにサントリーの担当者を訪ねた。


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コーヒー飲料の本質的な価値は、中に入っているコーヒー。しかし、スーパーやコンビニ等で売られているコーヒーはほとんどが中身の見えない缶。「クラフトボス」は、中身が見える透明パッケージにした事で爆発的にヒットした。大ヒットには現在の働き方にも大いに関係があった。今は、外に出る営業職だけでなく、企画系の方も増えている。彼らは一日中パソコンの画面を見て仕事をする。その際、コーヒーを少しずつ飲む。それをサントリーでは「チビダラ飲み」と言っていた。そんなユーザーにとってはだんだんコーヒーが減っていくのが目に見える安心感、達成感があるという。また、透明であることとで「シズル感(鮮度)」も伝わってくるという話だった。

インタビューを通じ、こうした「クラフトボス」のコンセプトが「エナージェル インフリー」にも大いに活かされていった。透明というのは、パッと見てすぐわかる良さがある。最近はインスタグラムが多くの人に受け入られている。その背景には文字より画像の方がストレートに伝わってわかりやすいということがある。現在のユーザーが求める「分かりやすさ」と「透明」との間には親和性があったのだ。

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■ アイデアが加速する
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「エナージェル インフリー」はなめらかに濃く書け、書いた文字の速乾性にも優れている。これらの機能は「思考」という行為にしっくりとくる。まず情報をインプットして記録することから始まる。それによりインスピレーションという直感的ひらめきが生まれ、それらをすばやく自由に書き出していく。そして、このインプットとインスピレーションの二つを双方向思考で深めていく。

どんな職種の方でも「考える」ということは欠かせない。そのため筆記具として「エナージェル インフリー」は頼もしい存在となっていくことだろう。

「エナージェルインフリー」は、2018年11月19日に限定商品から定番商品として再スタートした。今後の展開が気になる商品だ。

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土橋が注目したポイント
  • ぺんてるのペンで、私がよく感じるのはボディのカラーと書いた時のインクの色が常に同じであることだ。書く前はボディの色が目に入ってくる。その色を見ながら書いた時、文字も同じだと、とても安心すると言うか、期待通りという心地良さがあり、次に書き進めるのが前向きになれる。「エナージェル インフリー」も透明越しに見えるリフィルパイプと書いた文字がピタリと一致する。この筆記体験は本当に心地よい。そして、書くほどにインクが減り、そのリフィルパイプの色の部分がどんどんと増えていく。減っていくことが喜びに変わるということも「エナージェル インフリー」の魅力のひとつと言えるだろう。  
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「エナージェル インフリー」商品詳細ページ