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子供の頃から、さりげなく身の回りにあった「サインペン」。
きっと多くの方にとっても、もやは空気みたいに自然で、欠かせないものになっていると思う。
そのサインペンが私の中で、ちょっと特別な存在になったことがある。
かなり昔の話だが、お話ししてみたいと思う。 


■さりげないサインペンが特別なペンに見えた瞬間
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社会人なりたての頃だったので、今から20年以上も前のことになる。
当時、私はISOT(国際文具・紙製品展)の事務局で働いていた。
展示会の規模が大きく、毎日目が回るほどの忙しさだった。
私が担当していた仕事のひとつに展示会場の装飾設営があった。
たとえば、展示会の受付などの各種看板のプランを立て、装飾会社さんに設営してもらうという仕事だ。
会期が近づいてくると、装飾会社の方と毎晩のように打ち合わせをしていた。
ある時、その装飾会社の社長がじきじきに打ち合わせに来ていた。

「ここの看板はこんな感じですね」
そう言いながら、その社長は黒のサインペンを取り出しササッとイラストを描いていった。
私は、その流れるように自然な書き姿に見とれてしまった。
仕事だからその看板のイラストに注目すべきなのに、私の目はそのサインペンに釘付けになってしまったのだ。
よくよく見れば、普段からよく見かけるサインペンではないか。
しかし、その社長がサインペンを使っている姿は実に様になっていた。
さりげないサインペンがなにか特別なペンに見えた瞬間だった。

その後も注意して見ていたら、その社長はかならず何かを書く時は黒のサインペンだった。 
 
 
■このペンじゃないとダメなんだ
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ある日、打ち合わせの後に雑談をしている時に社長に聞いてみた。

「どうして、いつもサインペンを使っているんですか?」
「あ!これ、もう昔からこれなんだよね。
 このペン、すごく書きやすくてこのペンじゃないとダメなんだ」

明確な理由ではなく、「このペンじゃないとダメなんだ」という、ある意味感覚的な答えだったけど、妙に納得感があった。

展示会の前日、装飾会社と最後の打ち合わせが行われた。
もちろん、例のサインペン社長も出席していた。
そこには、やはり黒のサインペンがあった。
しかし、いつもと違って、まだ袋に入った新品のサインペンが何本も並べられていた。

 
■真新しいサインペンで、いざ本番
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打ち合わせがスタートすると、社長はビリビリと袋を破って真新しいサインペンを取り出した。
そうか、いよいよ本番だから社長も気合いを入れているのだろう。

翌日、展示会の搬入の時に、社長はサインペンのキャップを口でくわえて開けて
キャップをくわえたまま、書いている姿があった。

もうひとつ思い出すのが、その社長との書類のやりとり。
当時はまだメールなどはなく、FAXでやりとりしていた。
その社長からは、やはりサインペンで書かれていたものが送られてきた。
サインペンは太く独特な筆跡なので、名前を確認せずとも一目で社長からのFAXだと分かった。
 

人と文具が一体になっているのを、私は感じた。

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土橋の記事後記
文房具は、机の上にポンと置いてあるときよりも、実際に人に使われ、何かを生み出している瞬間が一番素敵だなと改めて感じました。私も文具と一体となれる関係をしっかりと作っていこうと思います。


ぺんてるサインペン商品詳細ページ
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