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Gマーク」でお馴染みのグッドデザイン。
2015年の受賞プロダクト・サービスが発表され、その受賞作を一同に展示する「GOOD DESIGN EXHIBITION」が六本木ミッドタウンで開催された(2015年10月30日〜11月4日)。ここ数年の受賞作を見ていて感じるのは、デザインがよいということのみならず、デザイナーはプロダクトを使うユーザーの行為までもデザインしているという点だ。どんなプロダクトもそれを使う人が必ずいる。そのプロダクトを使っているシーンがイメージできるものが増えているように思う。

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受賞プロダクト・サービスを一堂に集めた展示会

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行為までデザインしたという点で、個人的に最も注目したプロダクトはこれ。
(株)デンソー 作業補助装置「iARMS」。これは手術で使うものだ。
ドクターが手術する際の手のふるえをとめることができる。
肘をおくとフレキシブルに動かせるが、任意の点でとめるとカチッと固定される。

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見るからに振り回しやすそうなグリップを持つバット。美津野タイガー(株) 野球バット「レボルタイガー」

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凸凹した所でも安定した炊事ができるバーナー。(株)スノーピーク 登山用バーナー「ヤエンストーブ」

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ぬいぐるみスタイルの人体模型。これなら子供たちも怖くない?(株)マキトー・コンフォート「人体内蔵分解模型」

そのグッドデザイン賞の中には「ロングライフデザイン賞」というものがある。長きにわたり人々の生活の質を支え、今後もさらに向上させていくであろう「優れたデザイン」に贈られる。
今年は、250点のノミネートがあり、33点が受賞した。そのうちぺんてるのプロダクトが2点受賞した。「ぺんてるくれよん」と「修正液」だ。
今回と次回の2回にわたって、それぞれのプロダクトを取り上げ、なぜロングライフとなっているかに迫ってみたい。
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「グッドデザイン・ロング ライフデザイン賞」2015年受賞プロダクトを集めた展示コーナー

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濃く鮮やかな発色でなめらかな描き心地、そして不用意にフタが開かないホックなどが評価されたと推測。右上の数字は販売年数を表している。

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本体を押して使うことを想起させる段差デザインなど、デザインと機能を融合した点で秀逸なプロダクトと言える。

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文具では、その他東亞合成「アロンアルファ」、コクヨ「測量野帳」、プラス「修正テープ」などお馴染みのものも受賞していた。
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「三ツ矢サイダー」や「正露丸」など、まさにロングライフデザインなプロダクトも受賞していた


■ 60年ものロングセラー「ぺんてるくれよん」誕生の背景
さかのぼること約70年前の1946年(昭和21年)、ぺんてるの創業者「堀江幸夫」は、ふで、すみ、すずりの卸問屋だった「堀江文海堂」を改組。新たに「大日本文具株式会社」を設立した。当時はまだ戦後という雰囲気が色濃く残っていた時代で、同社は書道等に使う筆用品を中心に画材などを製造販売していた。堀江幸夫は「新しい日本をつくるのに最も必要なのは教育である」との決意で、この年新たにえのぐやくれよんなどの学用文具・画材の製造販売を開始した。

大日本文具株式会社としてスタートを切った次の1947年(昭和22年)、堀江幸夫の決意を具現化した製品がこの「メイロークレヨン」だったという。
メイロークレヨン




 













「メイロークレヨン」はその後パッケージのリニューアルを経て、1955年(昭和30年)に、現在の「ぺんてるくれよん」へと進化していく。
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「ぺんてるくれよん」と言えば、トレードマークの「ペペとルル」が有名だ。数多くの雑誌の表紙、企業ポスターなどを手がけてきた宮永岳彦氏によるものだ。当時、まだ松坂屋の宣伝部に勤務していた宮永氏にぺんてるが依頼して描いてもらったものである。その後、この「ペペルル」は一度のリニューアルを経て60年も使われ続けている。
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「ペペルル」パッケージは1971年に2代目にリニューアルされた。1971年は、社名が「ぺんてる株式会社」に変更されたタイミング。

宮永岳彦氏について、詳しくはこの記事をご覧いただきたい。
「ペペルル」生みの親、宮永岳彦表現の世界
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宮永岳彦氏


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ぺんてるのプロダクトデザインを統括する商品開発本部 デザイン室 
プロダクトデザイングループ 次長  清水 和久さんにお話しを伺った

パッケージは、見た目のデザインだけでなく、子供が使いやすい工夫も随所に凝らされている。
たとえば、鞄の中でクレヨンが飛び出さないよう、パチンとボタン閉めする仕様にしている。しかも、開けたフタがはずれない一体型にもなっている。子供はついついフタをなくしてしまうことがあるので、この一体型仕様にしたという。これらの作りは1955年当時から今も変わらず受け継がれている。
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昔も今も変わらないボタン固定式、そしてフタが一体化したケース

もう一つちょっと面白い工夫がある。くれよんをランドセルなどに入れて持ち歩く際、どうしてもシャカシャカとケースの中でクレヨンが揺れてしまう。この揺れでフタの内側にくれよんの色が付いて汚れてしまう。ぺんてるでは、これを逆手にとってフタの内側に色順の並べ方を表記した。フタの内側に自然に付いてしまう汚れをひとつの機能にしている訳だ。
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中のくれよんが揺れて内ブタを汚してしまうことを色順表記という機能にしている


■ 子供のことを考えたくれよんデザイン


子供、とくに未就学児童は、お絵かきをする際「色を塗る」よりも「線を描く」ことが多い。正確には物の形を線で認識し、年齢が上がるにつれて面を認識するようになるという。ぺんてるくれよんは、子供たちにとって、線描きがしやすいようにクレヨンの先っぽを少し細くしている。ちなみにプロ用のくれよんやパステルなどはこうした加工はなく、まっすぐな円柱状になっているものがほとんどだ。
加えて、小さな手でもしっかり握れるよう軸も細めにしている。
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■高品質なくれよん

くれよん自体の品質も折り紙付き。というのも、このぺんてるくれよんは、もともと専門家用画材「PENTEL」がベースになっている。くれよんというものは、顔料、ろう、樹脂を混ぜ合わせて作られる。同じ顔料でもどんな素材を使うか、どれくらいの割合にするかが各社の腕のみせどころ。ぺんてるが特にこだわっているのは「顔料分散技術」。
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なめらかに描け、発色もよい

顔料とは、細かな粒がたくさんちりばめられている。そこへろうなど別な素材を混ぜると、その均質さが乱れてしまう。それを均一に保つことで「ぺんてるくれよん」は発色性のよい画材を実現しているのだ。
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1955年の発売当初のぺんてるくれよんの実物


土橋が注目したポイント
  • そもそもくれよんは、生まれて初めて手にする画材であり、筆記具である。その人にとって記憶に残る存在となる。親世代が子供の頃に使い、自分が味わったよい筆記体験を自分の子供にも体験させたいと使わせる。そうしたよい循環が築き上げられている。1955年当時のものを見せてもらったが、今のものとパッケージ、製品本体いずれもほとんど同じだった。変えないということが、そうした世代交代にもよい影響を与えているのだと思う。
  • 1972年にリニューアルされた「ペペルル」。初代のものと見比べると、子供の髪型などその時代がよく現れているのが興味深い。



「修正のアイコン的ロングライフデザイン "修正液"」はこちら»


「ぺんてるくれよん」商品詳細ページ
http://www.pentel.co.jp/products/signpen/fudemojisignpen/

グッドデザイン賞公式ウェブサイト
http://www.g-mark.org


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