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前編では書き味という漠然としたものを、ペンや紙製品を作る上でどのように考え捉えているかについて両社それぞれの立場で語っていただいた。後編では、まずその書き味を作り上げていくために行われている筆記テストについて伺った。
前編では書き味という漠然としたものを、ペンや紙製品を作る上でどのように考え捉えているかについて両社それぞれの立場で語っていただいた。後編では、まずその書き味を作り上げていくために行われている筆記テストについて伺った。
*株式会社マークス 商品本部 商品企画1部部長 佐倉由枝さん
*ぺんてる株式会社 国内営業本部 マーケティング推進部 筆記具・修正グループ 課長 丸山雄太さん
*ぺんてる株式会社 国内営業本部 マーケティング推進部 筆記具・修正グループ 内村篤史さん
■製品開発で行われる「筆記テスト」とは?
土橋「ペン、紙はその両方がなければ書くという作業は行えません。開発する時は相手となる紙やペンを使ってテストしていると思います。筆記テストはどのように行っているのでしょうか?」
佐倉「まず、紙の基本的機能面をみるための筆記テストを行っています。社内でメンバーを選出します。筆圧が強い人、弱い人。それぞれ男性、女性からといった顔ぶれです。その際、あえて開発メンバー以外から選びます。理由はテストする紙のことを知らせていない人にするためです。私たちが開発した何枚かの紙を様々な筆記具で書いてもらいます。油性ボールペン、水性ボールペン、万年筆、鉛筆、シャープペン、マーカーなどです。ここではインキのにじみや浸透性などをチェックしていきます。同じペンと紙でも書く場所によってその結果は違います。たとえば、マンスリー手帳の小さなマス目に細かく書く時と、広々としたノートスペースにゆったりと書くのでは違ってきます。そうしたことも含めて調べていきます。」
丸山「私たちは、ペンの機能面を螺旋機という機械で調べます。大きなロールに紙を巻き付け、それを回転させてそこにペン先を当ててひたすら書いていきます。このテストでは、筆記距離、インキのかすれの有無、筆跡の幅に変化がないか、そしてチップは壊れないかといった耐久面など様々な項目を調べていきます。使用する紙もJIS規格適合の上質紙を含め、複数の紙でチェックをしていきます。このとき、競合品も一緒に書いて比較していきます。紙ごとにインキの乾燥具合、筆記抵抗値、インキの濃度、明度、インキの中抜け、にじみ、耐水性、耐光性など含め、複数の項目を数値化していきます。こうした筆記テストは必ず社内で行っています。」
土橋「ほるほど、筆記テストと言っても、各社それぞれに独自のやり方があるんですね。ここまで『心地よい書き味』というものを色んな面から見てきました。ここからは少し具体的にどのペンがどの紙に合うかといったことを率直にお話して頂こうと思います。事前にみなさんには、お互いの商品を試していただいていると思います。ぺんてるの各種『エナージェル』、マークスの『EDiT』1日1ページ手帳とアイデア用ノートです。」
土橋「『EDiT』手帳とアイデア用ノートにどの『エナージェル』のタイプが合うと思いましたか?」
佐倉「そもそも『エナージェル』がこんなにたくさんの種類があるとは知りませんでした。ボール径の大きさごとに書き味が違ってくるということなんですよね?」
丸山「実はそれだけではないんです。ノック式とキャップ式でも書き味は違うんです。ノック式はノックするとペン先が出てきますよね。スムーズに出てくるようにペン先と口金の間にほんのわずかだけスキ間ができてしまいます。書く時にその影響でわずかですがガタツキが起こりえるんです。強い筆圧だとあまり分かりませんが、弱いと少しだけ感じられます。一方でキャップ式の『エナージェルユーロ』はリフィルが交換できないタイプで、ペン先が完全に固定されています。つまり、安定した書き味になるんです。」
佐倉「なるほど、そうした違いがあるんですね。『EDiT』手帳で色々な『エナージェル』のタイプを試してみた結果、書き味はノック式の0.7mmがよかったです。なめらかで心地よいものがありました。ただ、0.7㎜だとインキの染み通しが見られました。書き味は少し硬めですが、私の筆圧なら0.5㎜なら染み通しも気になりません。私は0.5㎜のノックタイプがベストでしたね。特にぺんてるさんならではの、青く美しい発色のよさも、高ポイントです。筆圧の高い方や手帳ですと細字を好まれる方も多いので、そういった方にはさらに細めの0.4㎜や0.38㎜タイプがおすすめだと思います。」
丸山さんが「EDiT」手帳で試し書きしたもの
内村「この『エナージェル』はどう思われますか?実は出たばかりの新製品で3色ペンタイプと2色+シャープペンタイプです。『エナージェル』は全て0.5mmのみという設定。なめらかな『エナージェル』を多色にして欲しいという声に応えたペンです。」
新製品の「エナージェル」3色タイプと2色+シャープペン
佐倉「なるほど、これもいいですね。0.5mmの多色ということで、『EDiT』の手帳に合いますね。」
土橋「アイデア用ノートではいかがでしたか?」
佐倉「アイデア用ノートには、『エナージェル』よりも正直、『サインペン』の方がしっくりときました。知り合いからアイデアを書くときは色のついたペンの方が記憶に残りやすいと教えてもらい、実際にやってみると確かにそうなんです。私はピンクとオレンジを使っています。これくらい太い筆跡の方が書いたアイデアを人にもシェアしやすいんです。」
『EDiT』アイデア用ノート」にはサインペンがしっくりくるという佐倉さん。
土橋「ペン、紙はその両方がなければ書くという作業は行えません。開発する時は相手となる紙やペンを使ってテストしていると思います。筆記テストはどのように行っているのでしょうか?」
佐倉「まず、紙の基本的機能面をみるための筆記テストを行っています。社内でメンバーを選出します。筆圧が強い人、弱い人。それぞれ男性、女性からといった顔ぶれです。その際、あえて開発メンバー以外から選びます。理由はテストする紙のことを知らせていない人にするためです。私たちが開発した何枚かの紙を様々な筆記具で書いてもらいます。油性ボールペン、水性ボールペン、万年筆、鉛筆、シャープペン、マーカーなどです。ここではインキのにじみや浸透性などをチェックしていきます。同じペンと紙でも書く場所によってその結果は違います。たとえば、マンスリー手帳の小さなマス目に細かく書く時と、広々としたノートスペースにゆったりと書くのでは違ってきます。そうしたことも含めて調べていきます。」
丸山「私たちは、ペンの機能面を螺旋機という機械で調べます。大きなロールに紙を巻き付け、それを回転させてそこにペン先を当ててひたすら書いていきます。このテストでは、筆記距離、インキのかすれの有無、筆跡の幅に変化がないか、そしてチップは壊れないかといった耐久面など様々な項目を調べていきます。使用する紙もJIS規格適合の上質紙を含め、複数の紙でチェックをしていきます。このとき、競合品も一緒に書いて比較していきます。紙ごとにインキの乾燥具合、筆記抵抗値、インキの濃度、明度、インキの中抜け、にじみ、耐水性、耐光性など含め、複数の項目を数値化していきます。こうした筆記テストは必ず社内で行っています。」
土橋「ほるほど、筆記テストと言っても、各社それぞれに独自のやり方があるんですね。ここまで『心地よい書き味』というものを色んな面から見てきました。ここからは少し具体的にどのペンがどの紙に合うかといったことを率直にお話して頂こうと思います。事前にみなさんには、お互いの商品を試していただいていると思います。ぺんてるの各種『エナージェル』、マークスの『EDiT』1日1ページ手帳とアイデア用ノートです。」
土橋「『EDiT』手帳とアイデア用ノートにどの『エナージェル』のタイプが合うと思いましたか?」
佐倉「そもそも『エナージェル』がこんなにたくさんの種類があるとは知りませんでした。ボール径の大きさごとに書き味が違ってくるということなんですよね?」
丸山「実はそれだけではないんです。ノック式とキャップ式でも書き味は違うんです。ノック式はノックするとペン先が出てきますよね。スムーズに出てくるようにペン先と口金の間にほんのわずかだけスキ間ができてしまいます。書く時にその影響でわずかですがガタツキが起こりえるんです。強い筆圧だとあまり分かりませんが、弱いと少しだけ感じられます。一方でキャップ式の『エナージェルユーロ』はリフィルが交換できないタイプで、ペン先が完全に固定されています。つまり、安定した書き味になるんです。」
ノック式に比べ、キャップ式はこのようにペン先が完全に固定されている
佐倉「なるほど、そうした違いがあるんですね。『EDiT』手帳で色々な『エナージェル』のタイプを試してみた結果、書き味はノック式の0.7mmがよかったです。なめらかで心地よいものがありました。ただ、0.7㎜だとインキの染み通しが見られました。書き味は少し硬めですが、私の筆圧なら0.5㎜なら染み通しも気になりません。私は0.5㎜のノックタイプがベストでしたね。特にぺんてるさんならではの、青く美しい発色のよさも、高ポイントです。筆圧の高い方や手帳ですと細字を好まれる方も多いので、そういった方にはさらに細めの0.4㎜や0.38㎜タイプがおすすめだと思います。」
丸山さんが「EDiT」手帳で試し書きしたもの
内村「この『エナージェル』はどう思われますか?実は出たばかりの新製品で3色ペンタイプと2色+シャープペンタイプです。『エナージェル』は全て0.5mmのみという設定。なめらかな『エナージェル』を多色にして欲しいという声に応えたペンです。」
新製品の「エナージェル」3色タイプと2色+シャープペン
佐倉「なるほど、これもいいですね。0.5mmの多色ということで、『EDiT』の手帳に合いますね。」
土橋「アイデア用ノートではいかがでしたか?」
佐倉「アイデア用ノートには、『エナージェル』よりも正直、『サインペン』の方がしっくりときました。知り合いからアイデアを書くときは色のついたペンの方が記憶に残りやすいと教えてもらい、実際にやってみると確かにそうなんです。私はピンクとオレンジを使っています。これくらい太い筆跡の方が書いたアイデアを人にもシェアしやすいんです。」
『EDiT』アイデア用ノート」にはサインペンがしっくりくるという佐倉さん。
たしかにピンクとオレンジだと脳にいつもと違う刺激を与えてくれそうだ。
土橋「丸山さんのベストの組み合わせは?」
丸山「『EDiT』のアイデア用ノートをはじめて触った時、紙がちょっとツルツルしすぎかも?と思いました。でも実際に書いてみるとほどよい書き応えがありました。『エナージェル』らしさが味わえる紙だと思います。私は『エナージェル』ノック式0.5mmの青がしっくりときました。」
内村「私は『EDiT』手帳を以前から愛用しています。佐倉さんと同じ意見で、書き味は『エナージェル』の0.7mmが気持ちいいのですが、実際に使うとなると0.5mmの方が細かく書けてちょうどいいです。私は油性ボールペンインキは筆跡が見づらいと感じるんです。『エナージェル』の水性ゲルインキはクッキリしているので、目にすんなり入ってきます。『EDiT』の紙面は白色度が高く、『エナージェル』インキの鮮やかさをとても引き立ててくれる印象があります。ぺんてるでは画材を作り続けていることもあり、色に大変なこだわりがあります。開発者の中にも、微妙な色の違いも見分けられる色のマエストロ(職人)がいます。そうしたこだわりから生まれた色を楽しめる紙だと思いました。アイデア用ノートについても佐倉さんと同じで、『サインペン』が合うと思いました。『サインペン』で書いた時のササッという筆記音が心地よいですね。その点も相性がいいです。」
土橋「最後に『ペンで書く』ということは、皆さんにとってどういう意味がありますか?」
佐倉「未来をつくること。」
丸山「頭の中にあるものを形にすること。」
内村「手と同化するもの。体の一部にならなければ脳と一体化できません。」
土橋「長時間にわたり、ありがとうございました。」
土橋「丸山さんのベストの組み合わせは?」
丸山「『EDiT』のアイデア用ノートをはじめて触った時、紙がちょっとツルツルしすぎかも?と思いました。でも実際に書いてみるとほどよい書き応えがありました。『エナージェル』らしさが味わえる紙だと思います。私は『エナージェル』ノック式0.5mmの青がしっくりときました。」
内村「私は『EDiT』手帳を以前から愛用しています。佐倉さんと同じ意見で、書き味は『エナージェル』の0.7mmが気持ちいいのですが、実際に使うとなると0.5mmの方が細かく書けてちょうどいいです。私は油性ボールペンインキは筆跡が見づらいと感じるんです。『エナージェル』の水性ゲルインキはクッキリしているので、目にすんなり入ってきます。『EDiT』の紙面は白色度が高く、『エナージェル』インキの鮮やかさをとても引き立ててくれる印象があります。ぺんてるでは画材を作り続けていることもあり、色に大変なこだわりがあります。開発者の中にも、微妙な色の違いも見分けられる色のマエストロ(職人)がいます。そうしたこだわりから生まれた色を楽しめる紙だと思いました。アイデア用ノートについても佐倉さんと同じで、『サインペン』が合うと思いました。『サインペン』で書いた時のササッという筆記音が心地よいですね。その点も相性がいいです。」
土橋「最後に『ペンで書く』ということは、皆さんにとってどういう意味がありますか?」
佐倉「未来をつくること。」
丸山「頭の中にあるものを形にすること。」
内村「手と同化するもの。体の一部にならなければ脳と一体化できません。」
土橋「長時間にわたり、ありがとうございました。」
土橋が注目したポイント
- ぺんてるとマークスの方々が初対面というのは少々意外だった。書く、書かれるという実際は一緒に使われるツール同士であるのに、交流がなかったとは・・・。ただ、同じ書くという作業を担うメーカー同士なので、一度話がはじまると一気に距離は縮まっていった。私の勝手な希望としては、両社で共同商品企画をしたらきっと面白いものができるのではと感じた。たとえば、アイデア発想に相応しいインキの色の『サインペン』&『アイデアノート』など。
- ぺんてる内村さんが最後に指摘されていた書く時の「筆記音」について。人は何か動作を行った時に音があると安心感が生まれ、次の行動が取りやすくなる。たとえば、ボタンを押すとカチッと音がするとスイッチが入ったとわかる。「筆記音」にも同じことが言えると思う。ササッと気持ちよい音がすれば、アイデアが出たとわかり次の動作に進んでいける。ここにも書くと書かれるの組み合わせによる可能性が潜んでいる。今後は書くと書かれるメーカーの交流がもっと盛んに行われていくことを望む。