試しに描いてみると、ヌラヌラとした感触で描いていける。この発砲スチロールは通常のものよりも硬めのものだそうだが、描いていると表面がほんの少しだけ凹んでいく。この感触が何とも言えず気持ちいい。もはや「描いている」というよりも「立体物を作っている」という感覚に近かった。
■独自のクレヨンの使い方
これまでアクリル絵の具などを使ってきた吉田さん。
色々な絵の具が次々に出てきて、それらを試していた時期があった。その当時を振り返り、「画材を使っている」というよりも「画材に使われていた」という感じだったという。そろそろ自分にしっくりとくる画材を決め、それを掘り下げて使い込んでみたいと思っていた。そうした中でめぐり会ったのがぺんてるクレヨンだった。

砂粒を描く時は、こうして何本ものぺんてるクレヨンをテープで束ねてたたくように描いていく
ぺんてるクレヨンが自分の体験を表現するのに最適な画材であると確信を得た吉田さん。
その使い方は、想像を絶するものがあった。
その使い方は、想像を絶するものがあった。
■チョコレートのように、溶かして混ぜるという方法
そもそも、ぺんてるの学童用クレヨンは全部で24色ある。ある程度の色は揃っているが、微妙な色合いが欲しいということもあったという。特に、自然の木々の緑や地面を体験そのままに描いていくには、中間色のようなものが必要になってくることが多い。
そこで吉田さんがあみ出したのは、クレヨンを溶かして色を混ぜるという方法。
そこで吉田さんがあみ出したのは、クレヨンを溶かして色を混ぜるという方法。
「クレヨンって溶けるんですか?」と驚いている私に、「はい、溶けます」と言って家庭科室に場所を移し実際に見せてくれた。


ドロドロになったクレヨンを、今度は和菓子を作る時に使うみたいな木製の型に流し込んでいく。



それから3分くらいして型から外せば、色が混ぜ合わされたクレヨンの出来上がり。あまりの早わざにあっけにとられてしまった。

吉田さんが自ら作ったオリジナルのグリーンクレヨン

そのオリジナルグリーンクレヨンで描いた絵
このように混ぜ合わせたクレヨンであっても、書き味は全く変わらないという。
クレヨンで色を混ぜるというと、紙の上で何色かを重ね塗りするという方法がある。しかし、どうしても濁った色になってしまい、
吉田さんとしては納得がいかなかった。
吉田さんとしては納得がいかなかった。
吉田さんは、紙の上で色を重ね塗りして色を混ぜずに別の色で描き分けている。
紙の上で混ぜるのではなく「目で色を混ぜる」のだという。
紙の上で混ぜるのではなく「目で色を混ぜる」のだという。
■描くことへのこだわり

吉田さんに作品づくりで最もこだわっていることは?とおたずねしてみた。
一瞬考えて、ひとこと「描くこと」とお答えになった。どういうことかというと、「色を塗る」のではなく、あくまでも「描く」という意味だ。たとえば、菜の花の花びらにしても決して塗っていないという。菜の花には花びらがそれぞれ4枚付いていて、描く時もかならず4枚ずつ描いていく。先ほども触れたが、花びらは「レモンイエロー」と「きいろ」の2色だけで描いている。わずか2色でこれだけの世界を作り上げられているのも、「描いている」からなのだという。
たしかに、描かれた菜の花をじっくりとひとつひとつ見てみると、花にリアリティがある。
「ぺんてるクレヨンを溶かしたもので彫刻やオブジェを作ってみたいですね。ぺんてるクレヨンはシンプルで余計なことをしていないから無限の可能性があると思います。また将来、宇宙に行けるようになって、そこで作品を作ることがあったら、ぺんてるクレヨンを必ず持って行きます。だって、無重力でも問題なく描けそうだし、書く物が無くても、宇宙船の機体や月面にもきっと問題なく描けると思うので。」

取材後記*「前編」はこちら
クレヨンは、軸全体のどこを使っても描くことができる、実にシンプルな画材です。シンプルであるからこそ、先端を削って尖らせたり、溶かして色を混ぜたりといったこともしやすいのでしょう。クレヨンという画材の大いなる可能性というものを感じることができました。吉田さんがクレヨンを手にして描きだす姿は、クレヨンが吉田さんと一体になっているような、そんな印象を受けました。
吉田さんにとって「ぺんてるクレヨン」は「体験」を表現するために、なくてはならない道具であると痛感しました。そして、私ももう一度クレヨンを手にしようと思いました。
今回、ご紹介した「もぐら」は、「いちはらアートミックス」で2014年5月11日まで展示されています。
https://ichihara-artmix.jp/■東京都現代美術館
「MOTアニュアル2014 フラグメント−未完のはじまり」でも、吉田さんの作品が展示されています。
http://www.mot-art-museum.jp/exhibition/mot2014.html

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