一枚の絵というより、一遍のストーリーを思わせるキム・ジョンギさんのライブドローイング作品。後編では、その制作プロセス、愛用の画材に話は進んでいく。
圧巻のキムさんによるライブ・ドローイング
■ 印象的なところから描きはじめる
一人一人の人物が表情豊かに描かれているキムさんのライブドローイング作品。一体どのようなプロセスで描いているのだろうか。
世界中から注目を集めるドローイング・アーティスト キム・ジョンギ氏
「描きはじめようと思ったら、頭の中でこれから描いていくもののイメージをどんどん集めていきます。その中には自分が経験した記憶もあります。たとえばニオイなどの記憶もたぐり寄せていきます。そして、頭の中の想像のイメージもミックスしていきます」
キムさんが描く時にこだわっているのは、自分が見たものの中で特に印象的だったものから描きはじめること。そして、もうひとつは俯瞰視点で状況を少し上から眺めているようにしていることだ。キムさんいわく「神の視点」と話されていた。ストーリーのあるシーンを描くことが多いので、こういうスタイルにしているという。
ここにキムさんによる一枚のドローイング作品がある。マレーシアのペナンに行った時の記憶を元に描かれたものだ。先ほどの2つのこだわりがよく現れている。町中でウェディングカップルが記念撮影をしている場面に出くわし、ここを起点に作品はスタートしている。描きはじめたのは、なぜかカップルではなく、それを撮影していたカメラマンの背中からだったそうだ。また、作品全体を見てみると少し視点が上に据えられていることもよくわかる。
壮大なドローイングは、このカメラマンの背中からスタートしている
マレーシア ペナンでドローイングを行った作品の縮小版プリント。実物は幅が何メートルにも及ぶという。
壮大なドローイングは、このカメラマンの背中からスタートしている
■ 底なしの記憶力
驚くべきことに、この何メートルにも及ぶドローイングはペナンの町中を見た翌日以降に描かれているのだ。しかもカメラなどの撮影も一切行われていない。ただただキムさんの目で見て記憶していたことだけを頼りに描かれている。にも関わらず、この徹底したまでのディテール。キムさんは、自分が印象的に感じたことは細かなところまでしっかりと頭に記憶することができるそうだ。まるで、カメラのシャッターを切ってその映像を脳に焼き付けているかのようだ。その記憶の保存期間はとてつもなく長い。子供の頃によく行ったおばあさんの家や幼稚園の給食も今でも忠実に再現して描けるという。
発想のスタートは、あの人面白い、あれ面白いというキムさんの好奇心。それがあるから頭の中にしっかりと刻み込まれていくのだそうだ。
■ ライブドローイングに絶対欠かせない「ぺんてる筆」
これまで様々な描画材を手にして描いてきたキムさん。以前はあまり描画材にこだわりがなかったという。そこらへんにあるボールペンや鉛筆を手にして描いていた。ペンが手元になかった食堂では、ケチャップで描いたこともあったというほど。
ただ、ライブドローイングの時だけは、ずっと筆ペンを使っている。当初は韓国製ものを使っていたが、それはペン先がスポンジのような素材で作られたもので、描くとキュッキュと音がするようなもので馴染めなかった。他社のものも試してみたが、描き続けていると穂先がダメになってしまった。そんなあるとき手にしたのが「ぺんてる筆」だった。
現在のキムさんのライブドローイングを支えている「ぺんてる筆」中字
2003年から「ぺんてる筆 携帯用(中字)」を使いはじめ、2011年から現在は「ぺんてる筆 中字」をずっと愛用している。今使っているタイプの方が穂先がより長く描きやすいのだそうだ。
また、ライブドローイングではまわりでギャラリーの方々が見ている中で描いていくことになる。あまり細い描線ばかりだと見えづらくなってしまう。「ぺんてる筆(中字)」はその点でちょうど良いそうだ。先ほどのペナンの町を描いた絵では、一本の「ぺんてる筆(中字)」を使い、カートリッジを5回も付け替えて描ききったという。1日4時間×5日間描き続けても、穂先はまったく問題なかったという。
■ 下描きなし、というスタイル
キムさんのライブドローイングでは、下描きは行われない。まっさらな紙にいきなり「ぺんてる筆」で描きはじめていく。この点が見る人を魅了しているのだろう。オーディエンスには、次に何が描かれていくか見ていてワクワクしてしまう。演出効果の高いドローイング手法である。しかし、演出効果を目指したというよりも、実は必要に迫られて始めたものだった。
現在のキムさんのライブドローイングを支えている「ぺんてる筆」中字
2003年から「ぺんてる筆 携帯用(中字)」を使いはじめ、2011年から現在は「ぺんてる筆 中字」をずっと愛用している。今使っているタイプの方が穂先がより長く描きやすいのだそうだ。
「ぺんてる筆」の良いところは、細く繊細な線から太く力強い線まで自在に描けるところだという。キムさんが力を入れて描く時は、それこそ穂先がベタッとなるくらいにまで力を入れて描くが、離すとすぐに元に戻せる。この点は他社の筆ペンではなかなかできない点だそうだ。
また、ライブドローイングではまわりでギャラリーの方々が見ている中で描いていくことになる。あまり細い描線ばかりだと見えづらくなってしまう。「ぺんてる筆(中字)」はその点でちょうど良いそうだ。先ほどのペナンの町を描いた絵では、一本の「ぺんてる筆(中字)」を使い、カートリッジを5回も付け替えて描ききったという。1日4時間×5日間描き続けても、穂先はまったく問題なかったという。
■ 下描きなし、というスタイル
キムさんのライブドローイングでは、下描きは行われない。まっさらな紙にいきなり「ぺんてる筆」で描きはじめていく。この点が見る人を魅了しているのだろう。オーディエンスには、次に何が描かれていくか見ていてワクワクしてしまう。演出効果の高いドローイング手法である。しかし、演出効果を目指したというよりも、実は必要に迫られて始めたものだった。
それは美術予備校で生徒に教えていた時がきっかけだった。キムさんは大学一年生の時から美術予備校で教えていた。その世界ではちょっとした有名な存在だった。というのもキムさんが教えた生徒はその大半が希望の美術大学に合格できるという実績があったからだ。生徒に絵の描き方を教える際、お手本を描いて見せることが多かったキムさんは、たくさんの絵を描いて見せなくてはならず、時間ばかりかかっていた。あるとき下描きをせずにやってみたら上手く描け、生徒にも自分の意図したことがよく伝わったという。下描きなしスタイルは、実は時間短縮のための苦肉の策だったのだ。
また、キムさんのドローイングスタイルは細部から描きはじめてどんどんと回りを描き連ねていくというものだ。一般的な絵のセオリーとしては、まず全体の構図を決めて最後に細部を描いていく。キムさんの場合には、描きはじめる時、頭の中には描こうとする完成イメージの6〜7割くらいができているという。それを頼りに描き連ねていく。ここでもキムさんの並外れた記憶力が活かされている訳だ。頭の中だけで全体構成を練るキムさんのスタイルであれば、描きながらずっとイメージを膨らませ続けられる。まさに、ライブドローイングに相応しい表現手法と言える。
■ 「ぺんてる筆」は武器
今後どんなチャレンジをしてみたいですか?
また、キムさんのドローイングスタイルは細部から描きはじめてどんどんと回りを描き連ねていくというものだ。一般的な絵のセオリーとしては、まず全体の構図を決めて最後に細部を描いていく。キムさんの場合には、描きはじめる時、頭の中には描こうとする完成イメージの6〜7割くらいができているという。それを頼りに描き連ねていく。ここでもキムさんの並外れた記憶力が活かされている訳だ。頭の中だけで全体構成を練るキムさんのスタイルであれば、描きながらずっとイメージを膨らませ続けられる。まさに、ライブドローイングに相応しい表現手法と言える。
■ 「ぺんてる筆」は武器
今後どんなチャレンジをしてみたいですか?
「今後の展開としては、ライブドローイングで漫画を描いてみたいですね。漫画はユーザーに完成したものが届けられます。その制作過程はなかなか見ることができません。その制作工程こそ面白いと思うんです。それをユーザーにぜひ見てもらいたい。たとえばYouTubeで自分のチャンネルを持って一話ずつ描いていきたいですね」
最後に、キムさんにとってライブドローイングに欠かせない「ぺんてる筆」とはどんな存在かをお聞きしてみた。しばらくの沈黙の後に一言「武器」という答えが返ってきた。どんな時でも一番安定した書き味があるので、自分らしさを表現できる道具なのだ。
土橋が注目したポイント
- キムさんの作品は、どれも思わず見入ってしまう魅力がある。今に動き出しそうな人たち、なにかが起こりそうな躍動感に溢れている。そうした絵を描く時、キムさんの手は一切の迷いもなく「ぺんてる筆」を走らせ続ける。今回の取材でも私の質問に言葉だけの答えだけでなく、「ぺんてる筆」も走らせ描くことでも説明を加えて続けてくれた。「ぺんてる筆」は、キムさんの脳にあるものを忠実に再現する装置のようにも感じた。
キムさんがぺんてる社のためにその場で描いたサインとドローイング。ほんの数分で描いたとは思えない完成度だ。
左側の猫のイラストは、誤って垂れたしまったインクを生かして描かれたものだ。
プロフィール
Kim Jung Gi(金政基 / キム・ジョンギ)
1975年韓国生まれ。東義大学の美術学科で美術とデザインの修士を取得。2002年「ヤングチェンプ」誌でデビュー作「Funny Funny」を発表。現在はライブ・ドローイングを中心に世界各国で活動している。ソウルに創立した美術学校を運営し、自らも教鞭をとっている。
■Twitter:https://twitter.com/kimjunggi_jp
■Instagram:https://www.instagram.com/kimjunggius/
「ぺんてる筆」商品詳細ページはこちら
「ぺんてる筆〈携帯用〉」商品詳細ページはこちら