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これぞゴールデンウィークという雲ひとつない澄み切った青空、穏やかな陽気の2014年4月27日(日)、横浜で「山下公園ファミリー写生大会」が開催された。この写生大会は、開催から今回で31年という歴史があり、あまり表には出ていないがぺんてるがゼロから作り出したイベントなのである。    


毎回2万名近くが参加する大イベントに
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朝9時半に会場に着くと、絵の具セットを肩から提げた小学生のお子さん、そして親御さんが続々と集まってくる。
受付で専用画用紙を受け取り、みんな思い思いの場所にレジャーシートを敷き、写生が至るところで始まっていく。


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このイベントは横浜のPTA連絡協議会の主催で行われている。とは言っても、学校の行事ではなく、あくまでも自由参加のイベント。にも関わらず、どうしてこれほどたくさんの人たちが集まっているのだろうかと正直不思議な気持ちになった。
会場では、特にイベントがある訳でもなく、みんなひたすら写生に取り組んでいるだけなのだ。
 

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31年も人気イベントであり続けている秘訣
この「山下公園ファミリー写生大会」を立ち上げたのは、ぺんてる 常務取締役の平間直樹さん。31年前と言えば、昭和58年。
その頃、絵の具やクレヨンといった画材もよく売れ、この頃は絵を描くということが社会に定着している、そんな時代だった。
 
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そうした中で、家族で楽しめる写生大会を企画しようと考えたという。
この写生大会を開催する上で、ぺんてるとしてある考えがあったと、当時を振り返り平間さんは話す。

「ぺんてるはメーカーとして画材だけを販売するだけでは、いけないという考え方が強くありました。画材を通じて楽しさを感じてもらいたかったのです。ゴールデンウィークに家族で山下公園に行き、そこでお子さんが氷川丸などの絵を描く、そのそばではお父さんは横になりながらリラックスしてお子さんの様子を見ている。お昼になれば、お母さんが作ってくれたお弁当をみんなで食べる。『ファミリー写生大会』とあえて銘打ったのには、このように家族みんなでレジャーのように楽しんでもらいたい、という思いがあったからなんです。」

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なるほどたしかに、当日の会場の様子を見ていると、リラックスしているお父さんの姿もあった。
また、中には親御さんも一緒に写生をしている姿もあちらこちらで見られた。それはもはや、お子さんの写生に付き合っているという感じはなく、一心不乱に描いているという姿だった。 
 
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31年という歴史ならではの良い面もある。

子供の頃に、この「山下公園ファミリー写生大会」に参加し、楽しい家族との思い出を作った人たちが今や親となり、今度は自分の子供にもあの楽しい経験をさせてあげたいと親子二代にわたって参加しているというケースも増えてきている。

まさに、ファミリーイベントだ。

今でこそ、多くのPTAボランティアに支えられ、2万名もの来場者をスムーズに運営しているが、平間さんによると初回の時はかなり大変だったという。

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なにぶんはじめての開催ということで、一体どれくらいの方が参加するか検討もつかない。つまり、どれくらいの画用紙を用意しておけばいいか分からなかった。まぁ1万枚もあれば大丈夫だろうと手配を済ませ、当日を迎えた。

ところが、参加者の行列が途絶えることはなく、逆にどんどん列は長くなるばかりだった。
用意していた画用紙はとうとう底をついてしまった。

そこで平間さんは、スタッフとして参加していたぺんてるスタッフを全員集め、その一人一人に平間さんの名刺を渡し、横浜市の文房具店に向かわせ、お店にあるだけの画用紙を借りてこさせた。スタッフには、とにかく平間さんの名刺を店長に渡して、あとで精算するので、ひとまず貸して欲しいと頼み込んで回ったそうだ。

各店とも快く応じてくれ、無事乗り切ったという。

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今回のイベントでも、ぺんてるスタッフが数カ所で筆を洗う水の手配をしていた
 
絵を描くことは感受性を育む

絵を描くことの大切さは、いくらデジタル社会になっても変わらないと、平間さんは強調する。

「人間は幼児期から9歳までの間に脳の中の感受性、情緒的なものなど、人の気持ちがわかるといったことが最も発育するそうです。
この時期に絵を描くことで、それらを育むことができるのです。絵を描くことは、何を描くかを考え、どんな色にするか、どう描くかなど、様々なことを考えなくてはなりません。ぺんてるではたくさんのお子さんにそうした経験をしっかりとしてもらいたいと考えています。この写生大会は、そのためでもあるのです。」
 
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■絵を描いた子供たちへのとっておきのご褒美
こうした写生大会では珍しく、先生方による講評がある。

すでに触れたように、PTAとの連携がしっかりととれているので、横浜市内の図工を専門とされている現役の校長先生が20名あまり参加され、当日子供たちが一生懸命に描いた絵を講評してくれるのだ。

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その様子を後から見ていたが、聞いているこちらまで心がほっこりしてくる気分になった。
先生が一人一人の絵をじっくりと見て、「ここがよく描けているね」、「この部分を描くのは大変だったでしょ」、中には「何も言うことはありません。あなたはすでにあなたの色、世界を持っています。ぜひこれからもそれらを伸ばしていってください」など子供としっかりと向き合い語りかけていた。


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子供の方も、そうした校長先生のお話をニコニコしながら聞いていた。
その様子を親御さんも嬉しそうに見ている。中には、自分の描いた絵をうれしそうに講評してもらっているお父さんもいた。

ただただ写生するというイベントが31年もの長きにわたって毎回盛大に開催され続けている理由の一端がわかった気がした。


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取材後記

絵を描くというのは、他の勉強のように、ある正解を探し求めていくというよりも、正解のない自分だけの答えを探していくことでもあります。ある意味で自分自身を見つめ直すことにもなり、きっとそうしたことが感受性を育むいい機会になるのでしょう。このイベントでは、その絵を家族と一緒に楽しく描き、最後には校長先生に講評してもらえるのです。子供たちを中心に、学校、保護者、そしてそれを縁の下で支えているぺんてるが実にうまく連携しているのを感じました。
しかも、その誰もが実に楽しそうにしているのがとても印象的でした。